第318回:天理合宿③

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今回の合宿では柔道の練習は午後だけで、午前中はトレーニングに充てられた。何のトレーニングをするかはその日の監督の気分次第だが、有酸素系がメインである。具体的には火・金はランニングトレーニング、水は自転車トレーニング、木はウエイトトレーニングであった。

今回のお話は水曜日の自転車トレーニング。自転車トレーニングと言えば、ある程度のロードバイクやマウンテンバイクを使うのが普通である。そういった自転車を人数分借りる手間と費用を考えれば、合宿中にするトレーニングではない。何を隠そう合宿での自転車トレーニングは今回のが僕も初めての経験であった。

 

種明かしをすると、僕らはママチャリを使って自転車トレーニングをした。この自転車は合宿中に、ホテル~道場~コインランドリー間を行き来するために、本来観光用であるだろうものを全員分、天理駅前で借りたもの。荷物入れのカゴが前に付いていて、ハンドルが手前の方に湾曲した、ごく普通のママチャリである。残念ながら変速ギアはない。要するに、「これをやったらキツいんじゃないかな」、という監督の思い付きで実施されたトレーニングというわけだ。

コースは舗装された山道。ホテルから2㎞ほど行くと山への坂道が始まって、そこから3㎞ほど登ると天理ダムがある。そこがゴールである。ホテルから一度でも地面に足を付いたらやり直しというお達しを受け、僕らは一斉にスタートした。

前回から何度も書いているが、とにかく暑い天理。山道に入って人目がなくなるとすぐにみんな上半身裸になる。それでも後から後から滴る汗にもはや清々しささえ感じる。20人くらいの厳つい男たちが上半身裸でキコキコとママチャリを漕いでいる姿は、さぞかしシュールに見えたに違いない。たまにすれ違う車から僕らを見た人たちは皆、一瞬目を丸くした後、微笑みとも苦笑ともとれる微妙な表情をしていた。

ゴール手前1㎞くらいから、坂が急になる。そこまではたまに立ち漕ぎすれば行けたのが、ここからは一度も座れない。足に乳酸が溜まっていくのをヒシヒシと感じながら、各々ラストの追い込みを掛ける。チームで最も体重のある選手はおよそ150㎏、立ち上がってペダルを踏み込むたび、自転車がギシギシと悲鳴を上げた。傍から見ていて、人のトレーニングなのか自転車のトレーニングなのか分からなくなった。

全行程だいたい40分かけて全員無事にダムに辿り着いた。登り切ってしまえばもう、帰りは快適である。一度もペダルを漕ぐことなく麓まで一気に下山。マイナスイオンだらけの風がとても気持ちがいい。

行きは怖いが、帰りはよいよいだ。トレーニングとしてはそこそこだが、ある意味新鮮で楽しい午前中であった。