第331回:いわて国体④~帰りの電車について~
往路は久慈駅から国体用のバスで宿まで送ってもらったが、復路は三陸鉄道北リアス線で久慈駅まで行くことになった。あまちゃんで有名になったあの電車だ。
宿の人に最寄りの野田玉川駅まで送ってもらった。無人駅で、ホームの幅も2mほどしかない。基本的に北リアス線は単線で駅の区間だけ対向電車とすれ違えるように二車線になっている。時刻表を見ると一時間に一本のペースで電車があるらしい。すぐ向うには青々と広がる海が見え、後ろには山がある。我々以外に人はいない。僕の育った青梅も東京都内とはいえなかなか田舎で、僕の家の最寄り駅も無人駅で単線、電車も1時間に1,2本だが、ここ野田玉川駅の静かさ、ノンビリさとは全然違う。『スタンド・バイ・ミー』で少年たちが歩いた線路が思い出された。
電車が来るまでしばらく時間があったから、僕らはホームの端に腰かけ、足を線路の方に投げてブラブラさせながら時間を潰した。東京まで、およそ8時間の電車の旅。ちょうどいいところに新幹線駅や空港がないせいだが、気軽に行ける距離じゃない。
例えばこのあたりで生まれ育った少年少女が東京に進学や就職が決まって旅立つとなれば、それなりの覚悟と寂しさがあるんだろうな、などと考えた。青梅→相模原→日吉→横浜→目黒という住処経歴の僕は、いわゆる故郷から遠く離れて上京するという気持をいまいち分からないまま育ってきた。よくJ-POPの歌詞やPVの場面に「別れを惜しみ涙を流しながら、電車に乗っていく者と見送る者」的なのがあるが、いまいち共感できずにいた。会いたくなったら会いに行けばいいじゃない、と。それが、今回の駅の雰囲気を味わう中で、「遠い」という感覚、「別れ」の気持ちを、ほんの少しだけ分かったような気がした。
都会っ子の僕なんかが住むのはいささか大変そうだけれど、たまにこういうゆっくりと時間が流れる場所で息抜きをするのも人間として大切な気がした。試合に来たのだけれど、思いがけず色々なことを思い出させ、気付かせてくれた岩手県、ありがとう。またいつか遊びに行きます。