第422回:夏休み【佐渡編】⑦
ドライブは快適だった。他に車もほとんどない山道をビュンビュン進むだけ。ドライブ中にMr.Childrenを聞くのには流石に飽きてきて、道中は適当なTVのワイドショーの音声だけ聞いて過ごした(僕の車は、停車中しか映像は見られない)。番組は、新体操界での暴力・パワハラ問題でもちきりだった。どうやら塚原夫妻が宮原選手と全面的に戦う宣言をしたということらしい。それに対して、スタジオに出演している評論家やタレントが、誰でも言えるような一般論と正論をいつまでも並べたてていた。20年ほどどっぷりと体育会系の世界にいた僕も、アスリートの育成現場での体罰やら、スポーツ界の腐った組織とか、ある意味当事者として思うことが色々あるけれど、少なくとも一人きりの夏休みに大雨の佐渡をドライブしながら考えることではない気がして、チャンネルを変えた。
そうこうしているうちに宿根木に着いた。確かに、山から海に向かっての下り坂にビッシリと屋根が並んでいる。木造の家々は雨に濡れていっそう深い黒に染まっていた。黒々とした家々、灰色の空、茶色い海、そんなのをボーッと眺めていると、昔見た映画「ダークシティ」の街並みが思い出された。決してスカッとするような絶景ではなかったけれど、小さな家々が可愛らしかった。
宿根木の後は、再び快適なドライブをして街に戻り、蔦谷書店に行ってパソコンに向かった。まさか佐渡に蔦谷書店があるとは思わなかったけど、助かった。なぜならこの日は8月31日。月末。このブログの締切日だ。当時は鮮明な記憶のもと、秋田でのことを中心にバーッと書いた。4本書くのに2時間もかからなかった。ネタがあれば、スラスラ書けるものだ。
パソコン作業をしている最中に知らない番号からの電話があった。前日行ったスナックの女の子だった。公務員の兄ちゃんから番号を聞いたらしい。その日の夜ご飯のお誘いだった。おそらく、アテもなく訪れた佐渡で大雨に見舞われて特に何も出来ていない暇人への優しさだろうが、女の子から誘われるってのは悪い気はしないものだ。電話を切った後、柔道部の同期に自慢しようかと思ったけれど、また「なんで佐渡?」から説明するのが面倒なのでやめておいた。
一度宿に戻って、風呂に入ってから約束の店に行った。地元のおばちゃん二人がこじんまりやっている居酒屋だった。特別な料理などはなかったけれど、いわゆる家庭の味が美味しいタイプのやつだ。お客も店員ももちろん皆顔見知りのようで、僕と一緒に行った女の子含め、みんなでワイワイ酒を飲み、ご飯を食べた。しばらくすると公務員の兄ちゃんもやってきた。彼は実家が酒屋のせいで地の酒に詳しく、またそれしか飲まなかった。そしてなかなかお酒が強かった。普段あまり日本酒を飲まない僕は、彼について飲んでいたらすっかり酔っぱらってしまった。
二軒目はやはり昨日と同じスナックにお邪魔した。ママとマスターは相変わらず快く迎え入れてくれ、この日もたっぷり飲んでたっぷり歌った。楽しかったが少しだけ飲み過ぎた。定かではないが、この日もだいたい1時前後に宿に戻った。もう風呂に入る元気はなく、すぐに布団にもぐった。