第441回:友人代表スピーチ風
先週末は、呼んでもらっていた大学柔道部の同期の結婚式に謹んで出席してきた。大学柔道部同期で言うと、3人目のご結婚だ。大学関係者に限らず、ここ数年でなかなかの数の式にも呼んでもらった。良くも悪くも、こういう行事に慣れてきて、そうそう新鮮で面白い感想は出てこない。いつも通り、緊張した新郎の挨拶から始まって、新婦からご両親への感謝の手紙で締めくくられる。新婦の友達は、やたらと写真やらムービーやらを撮りまくり、新郎の友達は酔っぱらって暴れる。いつも通り。普段はなかなか集まることができない仲間たちと、めでたい場でハシャグ楽しい時間だ。そんな“いつも通り”に、今回一つ感想を付け加えるなら、「新郎新婦が美男美女だと、何やってても絵になるなぁ」。
そんなわけで今回は感想ではなく、新郎との思い出を少し書いてみる。印象に残っている出来事の中から公の場で発表できるようなのを、友人代表スピーチ風に。
その一。大学3年だか、4年だかの講道館杯で僕がいつも通り準々決勝あたりで負けた冬、新郎である彼と、同じく柔道部同期と僕の3人で中目黒のちょっと高級な焼肉に行った。普段、焼肉なんて言っても牛角の食べ放題で大満足しているような僕ら(僕だけかもしれないが)にとっては、学生時代を通じて数えるくらいしかない贅沢である。あくまで肉を楽しもうと、酒は飲まないつもりで行ったのだが、気が付けば彼ともう一人の同期はベロベロ。のちのち聞くと、ハイボールがバカみたいに濃かったらしい。僕は運転して行っていたから素面。
そんなシチュエーションで、二人は僕に「勝ってほしかった」と泣きながら訴えてきた。もちろん講道館杯の話だ。一人素面で、そんなことを面と向かって言われた僕は、上手く返事ができなかった。けど、何に対しても我関せずと一人ツンツン生きている自分のことを、これほど応援してくれている仲間がいることに感動し、こんな風に心底誰かのことを応援できる人ってなんて心がキレイなんだろうと思った。
その二。新郎は大学3・4年時に部の主務として柔道部を支えてくれた。面倒なこともたくさんあったであろうこの職務を引き受けてくれて、非常に感謝はしているものの、一つだけ文句がある。「クジ運」だ。当時僕らの柔道部は目標として、団体戦で東京大会・全国大会共にベスト8入りを掲げていた。学生大会のトーナメントは、強い順から8チームをシードとしてバラバラに配置したあと、それ以外のあまり強くないチームで抽選会をして残りの部分を埋める、という手順で作られる。もちろんあまり強くない我々はこの抽選組で、この抽選会に出席するのはチームの主務、つまりは新郎だ。目標であるベスト8入りをするということは、シードで配置されたチームのどこか一つを倒さなければいけない。つまり、シード権を持ってはいるけれど下の方、第8シード・第7シードのチームがいる山に配置されたい訳だ。
ところが、新郎はいつだって第1シードか第2シードの山を引いてきた。お蔭で、諦めたくはないけれど流石に無理だ、というチームとばかり戦わされた。抽選会から帰ってくる彼は、いつも眉間に皺を寄せて、ビクビクしながら気まずそうに道場や合宿所に入ってきたのを覚えている。
こんな風に、僕らには一切使ってくれなかった運を、まさか早慶戦の懇親会(新婦との出会い)で大いに使っていたとは。少々聞き捨てならない話だが、先に話した心のキレイさと、その幸運を最後まで離さなかったことに免じ、この場で、許しおく。
以上。おめでとう。幸せになって下さい。