第487回:青梅マラソン(3/5)

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走り出してまず思い知らされたのは、全然自分のペースで走れないということ。人が多くてなかなか前に出られないのだ。最初の1km、そういうものなのかなぁくらいの気持ちで周りに合わせて走っていたら6分もかかってしまった(kmあたりのスピードを、音声でイヤホンを通じてリアルタイムで教えてくれるアプリのおかげで、常にペースを把握できるのだ)。「これはマズい」と思った。周りに合わせて走っていたら日が暮れる。そこで一気にギアを3つくらい上げて、人込みを掻き分けるようにドンドン抜かしていくことにした。東京マラソンの応援しかしたことがなかった僕(子供のころ青梅マラソンの応援はしたがあまり記憶にない)は苦笑してしまうほど沿道(歩道)に人がいないおかげで、コース内で人が抜けない時は沿道を走った。この方針に切り替えてからはkmあたり5分程度で進むことができた。ただ、人を避けて走るせいで左右の移動が多いし、小刻みな加速と減速があって、普段のランニングと同じ感じで走っているとは言い難い。なかなかシンドい走りで、「これは最後までもつかな・・・」と不安が募った。

ちょうど我が家の近く、宮ノ平駅を少し過ぎた5kmあたりで、Sさんに追いついた。流石にマラソン慣れしているSさん、よく目立つ蛍光オレンジのTシャツで、後ろからでもすぐに分かった。ここだけの話、少なからずSさんを一つの目標として練習してきた部分があった。Sさんに追い付けばフルマラソンでも4時間切れるだろうという目安。だけど、今回に限ってはSさんどうやら練習不足。5kmで僕に追いつかれるのは決して良いペースではない。僕は断腸の思いでSさんを見捨て、「行ってきます」と先を急いだ。

人を掻き分け掻き分け前に進むのはシンドい一方で、その作業に集中するおかげで距離を忘れられた。抜いて抜いて、しているうちに10kmくらいがあっと言う間だった。今度誰かに、走っている時に何を考えるのか聞かれたら「人を抜くこと」と答えればいいな、と考えた。

だいたい10km弱あたりで、折り返してくる人たちのために道路幅の半分にコースを狭められた。こうなると当然、人込みの密度が上がる。連休最終日の山手線内回り、品川駅で一気に人が乗ってきたイメージだ。

コースを半分にされてから数キロ進んだあたりで、折り返しの人たちとすれ違い始めた。トップは黒人の選手で、それからポツポツと何人づつかの塊とすれ違った。かなりトップに近い塊に女性が一人だけ混じっていた。女子の新記録を出したと後で知った。そういう人たちを横目で見送るのだけど、まあ速いわけだ。一流選手はマラソンを2時間ちょっとで走る、というのは誰でも知っている。単純に考えてkmあたり3分弱、我々一般人が400mを全力ダッシュするようなペースで42km走っているわけだ。その現実をいくら聞いても、テレビで見ても、僕なんかは「どうしてそんなことが出来るの?」と信じられない気持ちになるのだけど、それを自分が実際に一緒に走っている中でやられると、また違う感覚がある。心の底から、身体の底から、自分には絶対にできないことをできる人に対する尊敬。タメ息がでるような感心。決してネガティブな意味ではないけれど、なかなか「やれやれ」の感覚である。

そんなこんなのうちに川井駅、折り返し地点。腿の前に筋肉痛のような痛みが若干あったけれど、体力的には「まだいける」と思える状態。タイムも1時間30分弱で悪くない、というより非常にいい。自分史上最高のペースだ。これをキープすることを意識して折り返しの道に突入した。