第488回:青梅マラソン(4/5)

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折り返す頃には、周りに自分と同じくらいのペースの人が増えてきた。復路は基本的に下りが多いため往路よりもだいぶ走りやすい。ただ着実に疲れてきている感覚はあって、徐々に周りを気にする余裕がなくなってきた。そのせいか、すれ違うSさんを見つけることができなかった。徐々にすれ違う人もまばらになって、最終的には当然最後尾の人たちとすれ違う。今にも膝をついてしまいそうにヨロヨロと進み、今しも収容バスに拾われそうな彼らを見て一瞬気の毒だなと思ったけれど、すぐに、自主的に走っているのだから同情の余地はないことに気が付いた。そうなると逆に「なんで出ようと思ったんだろう。出るからにはと準備しなかったんだろうか」と気になってしまった。

復路最大の山場、二俣尾駅あたりの急な登りを越えたあたりで、自分をダマせないくらいにキツくなってきた。一番嫌だったのは腿の裏に張りが出てきたことだ。なんで腿裏(ハムストリング)が嫌かと言うと、ツルからだ。その感覚にビビッて、ポケットに2つ忍ばせておいた栄養補給ゼリーの一つを飲んだ。その甘味で喉が渇いたから適当な給水ポイントで水を入れた。

 

久しぶりに全日本合宿のランニングトレーニングを思い出した。あれは僕の柔道人生の中でトップレベルにキツかった。走りでゲロ吐いたのは後にも先にもあれだけだ。そして何が憂鬱だったかと言えば、そのランニングトレーニングは朝のトレーニングに過ぎないという事実だ。そこから午前・午後と柔道の練習が待っているわけだ。今思っても地獄である。それに比べれば今の自分はまだまだ良い感じであることに気が付いた。走り終わってから柔道をしなくてもいいんだから、ここで全部出し切れるのだ。もう一丁頑張っとくか、と思えた。

ペースはkmあたりちょうど5分。胸を張って良いのか悪いのか、練習では出したこともないスピードである。正直「おいおい、俺凄くないか?」と思い始めた25kmあたり、我が家の付近で家族が応援に出てきてくれていた。「やっぱキチーわ。けど俺速くね?」とその時ちょうど考えていた二つだけ会話して走り抜けた。

残りの数kmは、気持ちに身体が付いてこないような状態。思ったように前に進めていないような感覚。これが更にいくと、マラソン選手でよく見るような、意に反して止まってしまう「身体が動かない」状態になるんだろうな、と思った。この状態ってことはつまり、今の僕に出せる力は全部出し切った走りをできているってことだ。悪くない充実感だった。Sさんの応援についてきた会社の柔道部同期らに迎えられてゴールした。

結果、僕のタイムは【2:3349】。kmあたり5分7秒程度。間違いなく人生史上最長距離を、人生史上最速で走り抜けた。どうせなら2時間半を切りたかった、なんて生意気を言ってみたりもしたけれど、至極満足な結果である。