第509回:カッパの河流れ②
そんな環境で幼少~少年期を過ごした僕は、当然ながら毎日その大自然で遊んだ。奥多摩湖から流れ出る渓谷の水は夏でも冷たく、それがまだ氷のような春先から、周りの木々が赤く染まり始める頃まで、上半身裸の海パン一丁で家から川に降り、いつも遊んでいる場所まで遡上して、日が暮れる頃に川下りをして帰ってくるような日々。おそらく普通の人だと息を飲むような激しい流れの中を身一つで上ったり下ったりしている姿は、カッパのようであったことだろう。まあ体型に関しては昔から、猫背でヒョロっとしたカッパのそれとはだいぶかけ離れていたけれども。毎年何人かがこの川で流されて亡くなったというニュースが流れる中、まだ小学生の僕らきょうだいを自由に遊ばせてくれた両親には感謝しなきゃいけない。
最近、コロナ禍で都心で遊ばない代わりに、ちょいちょいこの川に戻ってきては昔のように暴れまわっている。すごく懐かしく、何も変わっていない環境と自分に少しホッとしたりもする。 ただ一つ、自分が昔と変わってしまったと感じたのは、寒さを感じるようになったこと。物心ついた頃から相当の筋肉といっしょにそれなりの脂肪を身にまとってきた僕史上、おそらく今は最も脂肪率が低い。そうなると人間ってやっぱり寒さに弱くなるようだ。あるいはこれが大人になるということなのか。その日はたまたま日が陰っていて気温がそこまで高くなかったというのも一つの原因だとは思うが、8月の川を寒いと思うなんて、増してや少し震えている自分にはかなり驚いた。小さい頃、少し泳いだだけで寒いと言って唇を紫にしながら帰ろうとする友達を「そんなはずないだろ」と無理やり川に引きずり込んでいた自分には改めて「やれやれ」と思うし、被害者のみんなにはこの場を借りて心からごめんなさいをしておく。