第542回:謙虚な物欲
今月61歳になった父親の誕生祝いに、姉と二人で財布を贈った。全くもってブランド志向のない我が家族だから、デザイン優先で、赤い皮の二つ折り財布。それまで父親の使っていた、もともとどんな色だったかもよく分からない緑っぽいボロボロの二つ折り財布を新しくしようというコンセプトで贈った。
それ以来、そういえば自分も、今の財布はだいぶ長いなぁなんて思い始めてしまった。今僕が使っている財布を買ったのは、大学一年生で初めて国際試合に選んでもらって行った韓国からの帰路。余ったウォンを空港で使い切るという名目で買った。黒い皮の二つ折り財布。なんでそれを選んだのかも覚えていないが、S.T.Dupontで、たしか2万円ちょいだった。かれこれ12年間使っていることになる。そろそろ新しくしても良い頃合いではないか?
物欲弱く、物持ち良く育った僕は、特に必要ないかと思えば、さほど自分を律することもなく購買欲を切り捨てることができる。加えて貧乏性なものだから、使える物を捨てることに、決して小さくない抵抗感を覚えたりする。
改めて今の財布を眺めてみると、長らく僕の尻に敷かれたせいで(僕は財布を尻ポケットに入れる)四隅は丸まって黒もくすんではいるものの、どう見てもまだまだ使える。
父親へのプレゼント選びで、何回もGoogleで「メンズ 二つ折り財布」などと調べたせいで、最近の僕のInstagramやFacebook、Twitterのタイムラインには大量の財布の広告が流れてくる。なんとも物欲をくすぐる、恐ろしいターゲット広告である。パッと見でオッと思うものがあれば商品の詳細を見たりするのだが、決め手に欠ける。二つ折りタイプで、ある程度の収容力を求めたら、だいたいどこのメーカーも同じようなデザインになるわけで、総じて今使っているものとたいして変わらない。
容赦なく降ってくる広告を捌きつつ、よほど気に入ったものがあれば手を出してみようと、謙虚で控え目な物欲と向かい合う日々である。