第555回:靴が危ない

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小学校1年生のとき”くつがあぶない”というタイトルの日記を書いた。学校からの帰り道、道に落ちているイガ栗を蹴ろうとしたら、新しい靴がポーンと飛んでいってしまうお話だ。蹴った場所が運悪く橋の上で、靴はそのまま5mくらい下に流れている川に落ちていってしまった。通学路は多摩川の渓谷に沿ってあり、いくつもの支流がそれに注いでいて橋が架かっているのだ。裸足のまま走って帰宅し、靴を履き替え、母と一緒に川まで降りて靴を救出したという日記だった。

先日、ほぼ毎日使っているトレーニング用の靴が無くなってしまった。もちろん今回は川に落っことした訳ではない。盗まれたのだ。多分。朝、出社する時に玄関の前に置いておいたのが、帰宅すると無くなっていた。僕は今、廊下も階段も門も共有しないアパートの一階に住んでいて、玄関は通りに面している。「そんな所に置いておいたらそりゃ盗まれるわ」と思われるかもしれないが、話はそう簡単ではない。

その日、いつものようにその靴を履いて朝のランニングに出た。走り出して10分くらいで雨が降り出し、一気にスコールのような土砂降りになった。雨は20分くらいで止んだものの、全身ビショビショ、もちろん靴もビショビショ、踏み出す度にズチャッとなる状態だ。着ているものがズブ濡れになるのは許容できるが、靴は不快だし重たいし、気にせずにいるのはなかなか難しい。そのせいで後半ペースを落としながら帰宅し、そのまま靴は玄関先に干しておいた。僕の思考としては、31cmの、そこそこボロい(すでに1年は使っていた)、汗と雨で生乾きの、それ故になかなか強烈な臭いを放っている靴が、まさか盗まれるとは考えなかった訳だ。

だから、帰宅して靴が無くなっていることに気がついた時、僕は混乱した。「え、あれを盗む奴がいる?」と。1週間程経った今も混乱は続いているが、可能性としては以下の3つを考えている。

①そうとう履くものに困っている人が持っていった

②ただの嫌がらせ

③ゴミと間違えて回収された

どれも全くあり得ないとは言えないものの、「そんなことある?」って話だ。できれば、困っている人の手に渡ったという意味で①であって欲しい。②だとしたら、結構怖い。③だったら、特にコメントはない。謎は謎のまま、おそらく一生解けないだろうが、とにかくそういうことがあったのだ。

すでにかなりボロくなっていて、そろそろ買い替えなきゃなぁと思っていたから、失ったショックはさほど大きくはないものの、やはり突然無くなるというのは困る。次の日に”大きい靴専門店”に行って新しいものを購入した。今度は赤にした。もう同じ失敗は繰り返さない。家にいない時の外干しはしないと誓った。