第575回:ドライブ・マイ・カー

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相方が突然「ドライブマイカーを観に行きたい」と言い出した。どこかの有名な賞を取ったとかで、ニュースやワイドショーでいきなり取り上げられたが、公開当時は特に大きな話題にもなっていなかった映画だ。

相方がそんなことを言い出した時、僕はまだその受賞のことを知らなかったから「何でいきなりそんなマイナーな映画のことを?」と少し驚いてしまった。と言うのも、僕はこの映画のことを、公開前から知っていた。なぜなら原作が村上春樹だからだ。ドライブ・マイ・カー2014年に発売した短編集女のいない男たちに収録された短編のうちの一つ。当時まんまと女のいない男だった僕も「へっ」と思いながらすぐにこの本を買って読んだ。いくつか入っていた短編の中でもドライブマイカーについては、連載中の原稿の文章に、地域差別的という批判があったとかで、本になる際に村上春樹が書き換えたという話を聞いて、よく記憶に残っていた。

そんな思い出深く、好きな原作者の映画を、受賞云々で有名なる前の数ヶ月間に、僕が観に行っていなかった理由は、「絶対微妙」と思ったからだ。僕は、村上春樹好き故に、その映像化は無理だ、と思っている。彼の小説はたいてい、長ったらしくて、周りくどくて、ウジウジしてて、現実か夢かもよく分からなくなるような文章でできている。それを映像化なんてしてしまったら、恐ろしく退屈で、見終わった後に「で、結局なんの話だっただっけ?」という作品しかできないはずだ。きっと1.5倍速で観たって、欠伸が出てしまうに違いない。最後には「やれやれ」と言ってしまうかもしれない。個人的な感想ではあるが、映画ノルウェイの森だって、まぁそんな作品だった。

だから、少なくともお金を払って映画館で観るべき映画ではない、と無視してきたのだが、珍しく相方が観に行きたいなどと言うもんだから、受賞を受けての世間の熱が冷めてきて少し落ち着いて観に行けるようになれば、観に行ってもいいかなと思っている。絶対微妙だと思うけど。