第587回:付き人業②

Pocket

今回の付き人業務については、とにかく出しゃばらないことを意識して、穏やかな表情で選手のサポートに徹した。当然と言えば当然だ。対戦相手の柔道スタイルなんて全然分かっていないし、そもそも付き人として付いているこちら側の選手のスタイルだってよく分かっていないのだ。加えて、細かい部分でコロコロと変わっている柔道のルールだって、引退して以降に変更された部分はあまり把握していない。口を出す(出せる)余地がない。

付いている選手が「おそらく相手は●●してくるので、僕は●●します」とか「こういう試合展開になるので、こういう戦略で行きます」とか、細かい点を確認していることについて「うんうん、そうだね」ととりあえず頷いておいた。少し不安そうな沈黙があれば「大丈夫だよ」と言い、試合から戻ってくるたびに「強いねー、凄いねー」と言った。よく分かってない故に、中身はスッカラカンだけど、とりあえず居心地がよく、なんとなく落ち着く雰囲気作りに徹した。現役時代に付き人なんてやったことがなかったから、完全なる自己満足ではあるものの、割とサポート役も向いているのかもしれない、と自分では思った。

とは言え、僕が付いた選手は、一人は一回戦負け、一人は準優勝という結果。(お前は彼らの何なんだ?と突っ込まれそうだが、)優勝させることはできなかった訳だ。特に次回に向けて何か準備する訳ではないのだが、次は勝たせてあげられるように頑張ろうと無責任に思った。

そんな呑気なことを考えているのも束の間、早くも次の付き人依頼が舞い込んできた。次は”全日本強化選手選考会”なる大会。コロナ禍で、本来は強化選手選考の役割を兼ねている講道館杯が開催できていないため、「その選考を行う」という特設的な大会である。付く選手は先の体重別選手権と同じ。次はいい結果が出せますように微力ながらサポートしてくる所存である。