第611回:紅葉祭り②

Pocket

山中湖に着いたのがだいたい4時くらいで、曇り空にまだ少しだけ太陽が残っていた。肝心の紅葉は、確かに紅葉だった。黄色やら赤やら、思い思いに色づいた木が湖を囲う山々をあって、風情があるという感じ。期待を上回るとか、息を飲むとかのレベルではなく、「確かに紅葉だ」という紅葉だった。最近は写真の加工技術が進歩し過ぎて、SNSで見たものを期待して現地に行くと、「まぁ、うん」ということが多くなった気がする。今回のこれも例外ではなく、そういうことだ。

湖畔では、例の紅葉祭りと銘打って、テントや屋台がいくつか立ち並び軽食やドリンクを売っていた。それらの間を縫うように木でできた即席ベンチみたいなのがチラホラ置いてある。いくつかあるベンチ郡の真ん中にはそれぞれ焚火があって、膝下くらいの火がパチパチと元気のいい音を鳴らしていた。

僕らはそんなイベントゾーンをしばらく歩いてから、適当なベンチに座り、家で作ってきたサンドイッチとサラダを食べた。それだけ書くと気持ちのいい、のんびりとした感じの夕方なのだが、誤算だったのが寒さだ。山の上の湖はビックリするくらい寒かった。軽めの上着しか持っていかなかった我々は、少し心許ない焚火に縋りながら、ご飯を食べた。サンドイッチもサラダも、お世辞にも体が温まる食べ物ではない。どちらかと言えばお弁当にしなくても、普通に食べても冷たい食べ物だ。増してや、長時間車に載せておくことを考慮して保冷剤と一緒に包んでいた故、もはやアイス並の食べ物になっていた。手の感覚を無くしながら、少し震えながら、食べた。