第644回:一人呑み②
一度敷居を跨いでしまえば、二回目以降は実に容易く行けるもので、仕事の区切りがついて少し呑みたい気分の時や、次の日休みなのに予定がなくて、大人しく帰って寝るのは納得いかないという時、フラッと一人で寄って、軽く呑んで帰るのが日常になった。だいたい僕が行くのは8-9時頃で、店が混み始めるより早い時間帯だから、他に客がいないことが多い。幸か不幸か、村上春樹の主人公みたいに一人でゆっくり考えないといけないような悩みを僕は持っていないから、たいてい店員とおしゃべりしながらハイボールをチビチビ呑む。他に1人2人、客がいれば一緒に話す。カラオケは歌わない。もちろん歌うことは好きだけど、一人で歌うほど上手くもない。話をしている方がずっと良い。そして自然と店員や同じ時間帯に来る客と友達になる。大人になってからできた、全く利害関係のない友達って、考えてみると僕は初めてかもしれない。自分でもビックリするくらい自然体に正直に色んなことを話すことができる(もちろん言ってはいけないことは話さない)。
憧れていた一人呑みとはまだ少し違うけれど、確実に人生が少し豊かになった気がする。もっと早くチャレンジしておけば良かったとは思うけど、きっとこのタイミング、32歳くらいの僕でちょうど良いような気もする。そこそこ世間のことが分かり初めてきて、けどまだギラギラな野心もあって、でもそれを全面に出し続けることはしないくらいの大人で、それくらいでちょうど良い。せっかく覚えた一人呑み、もっと色んな店に縄張りを増やして楽しい大人ライフを送りたいと思っている。