第663回:初パーマ②

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美容院は“五反田”と時間帯で検索しただけで、詳しい場所は行く直前まで把握していなかったけれど、東口のいわゆる歓楽街の通りに面しただいぶ怪しいビルの2階にその美容院はあった。来る前にシャワーを浴びて、からろくに乾かしもせずセットもせず自転車に乗って五反田まできた。当然頭は爆発している。そんな風貌で怪しいビルに入っていくと、朝から並んでパチンコして、手持ちがスッカラカンになって、遂に消費者金融に手を出しに行く廃人寸前のギャンブラーみたいな気分になった。

僕はいわゆる”イケてる側の人間”として生きてきていないから、例えばハイブランドの店とか、高級なレストランとか、未だにそういうところに行くと少し緊張する。美容院も僕にとっては”そういうところ”の1つだ。大体オシャレな美容師さんが、小慣れた客を相手にしていて「こんな髪型はどうか?こうしてみるのはどうか?」と僕が聞いたことのない単語をふんだんに使って会話してやがる。大してオシャレでもない自分みたいな男が乗り込むと笑われるんじゃないかと思ってしまう。間違いなく自意識過剰ってやつだ。

ついてくれた美容師さんは、おそらく僕より一回り若い女性で、美容師として中堅に差し掛かったくらいのオーラを身に纏っていた。自意識過剰のせいで少し汗ばみながら、一生懸命「パーマをかけたい」という意思を伝えた。初めてだから少し緩めに・・・でも髪の長さが足りるか心配で・・・◯◯パーマとか、種類は全く分からんのですが・・・。そんな素人にも優しく相手をしてくれた。「なんでこいつ2月に半袖で汗かいてんだ?」とは思ったに違いないが。