第671回:シャイロックの子供たち②

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まずはその感想に至る本編の話を少し。

支店で稼ぎ頭と言われていた人物が、厳しい営業ノルマ達成のために架空融資に手を染める一編がある。ひょんなことからその不正が銀行にバレ、おそらく解雇は免れないだろうとなった日の夜、何も知らない家族の元に帰る。奥さんと子供とご飯を食べながら、「いつから間違えた?」と後悔しながら、最後の団欒を味わうという話。

この話について解説では、「必死に働く者すべての心に訴えかける」、「涙なしには読むことができない」と書いてあった。分かるような分からないような、上手く自分の気持ちが定まらない感覚になった。最初に感じた違和感は「働くってそんなにもしんどいことだらけなのか?」ということ。確かにこの”シャイロックの子供たち”は出てくる全員が、苦しんでいた。半沢直樹のようなヒーローは出てこないし、爽快な逆転劇もない。それぞれがどちらかというと陰鬱な背景を背負い、厳しい業務を課せられており、苦しそうに働いている。この作品が書かれてから10~20年程度経過しているから転職云々の考え方とかが違うというのは分かるけれど、そんなに苦しくて嫌なら逃げればいいのにと思う。次に思ったのは「家族を持っちゃうとそんなに大変なのか?」ということ。先述の通り、この本の登場人物はだいたいみんな苦しんでいて、その苦しみを加速させているのが家族の存在だ。易く言えば、出世やら収入増に向けた家族のプレッシャーに押しつぶされそうになっている。そんなに足を引っ張られるような家庭なら作らなければよかったのに、なんて思ったりもする。

おそらく、一人で読んで一人で飲み込んでいれば、こんなモヤモヤすることはなかった。「銀行員ってのは大変な人たちだな〜」くらいの感想でサラッと通り過ぎていたはずだ。それが”解説”とやらで、「働くとは、家庭を持つとは、こういうことなのだ」と第三者に言われ、「え、そうなの?」となってしまった。まるで世の中一般的な意見であるかのように、僕の頭に刺さってしまったわけだ。