第680回:着替え幽閉

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この間、通っているジムで僕が使っていたロッカーが突如開けられなくなった。鍵の不調だ。差し込む方の鍵は特に問題ないのだが、鍵穴の方に何やら問題が発生して、ちゃんと奥まで刺さらないのだ。トレーニング前、鍵をかける時は特に問題なかったのに、トレーニング後に開けようと思ったら、そんな有様だ。「そんなことある?」と思って3分くらい無理やり差し込もうと試行錯誤したが、頑として奥まで刺さってくれず、とうとう諦めてジムのトレーナーさんに助けを求めた。

トレーナーさんなら、マスターキーとか持ってきてサクッと開けてくれるのかと勝手に期待していた。しかし小走りにロッカールームにやってきたその人が手に持っていたのは”5-56”錆び取りスプレーだった。嫌な予感がした。

案の定、”5-56”を吹き込んでも状況は変わらなかった。鍵は差し込めず、扉は閉ざされたまま。いかんせんトレーナーさんだから、相当に鍛えている人で腕っぷしは太い。それが力一杯に差し込もうと四苦八苦してダメなのだ。サビも力も関係ない。何か根本的に壊れてしまったか、何か異物でも詰まってしまったのだろう。こうなると僕はもちろん、ジムとしてもお手上げのようで、「業者を呼んでなんとかします」という展開になった。この日は休日だったから、「業者の関係でどうしても週明けの対応になってしまうかもしれません・・・」ととても申し訳なさそうに謝られた。

「すぐに必要なもの、入ってますよね?」と聞かれた。「いいえ、大事なものは何も入ってないので、正直対応が遅くなっても全然大丈夫です。」と僕。

「え、でもお財布とかは・・・」、いいえ、「カードとか携帯とかは・・・」、いいえ、「お仕事に必要なモノとか・・・」、いいえ、と何回かヤリトリした後、遂にトレーナーさんが「え、じゃぁ逆に何が入っているんですか?」と聞いてきた。「あの・・・全然大事ではない着替えだけです」と答えた。どう見たって僕は全然悪くないのに、なんだか少し恥ずかしかった。

僕はジムに、トレーニングに必要なもの以外、何も持って行かない。最初からトレーニング着の状態で、靴と、帰りに着る服だけ持って行く。ジム帰りの格好なんて、ただの寝巻きだ。ダルダルで色褪せたTシャツと短パン、なんならパンツすらない。本当にそれだけリュックにグシャっと詰めて行っている。そのリュックをロッカーに放り込んで、トレーニングして、風呂入って、着替えて帰る、それだけ。だから財布とか他貴重品なんてものは一切必要なく、持って行かない。

そんな、人に扱われるのが恥ずかしいレベルの寝巻きが入っただけのリュックは、結局次の日には無事救出された。トレーナーからメールをもらってコソコソ受け取りに行った。ロッカーは他人に開けられても恥ずかしくないくらいにはしておこうと思ったこの頃。