第102回:寮生活
先日、来年合宿所に入寮してくる予定の高校三年生の両親が寮の見学に来た。お小遣いはいくら位もらっているか ? 食事はどうしているか ? 勉強はしっかり出来るのか ? など色々と相談を受けた。うちの場合、お小遣いは適当だし、食事も外食が多いし、勉強も・・・まぁほどほどだ。正直に答えれば答えるほど不安にさせてしまったかもしれない。僕なんか、寮生活はかれこれもう5年目、我ながらベテランだ。そんなことを考えながらふと相模高校の寮を思う。
東海大相模高校柔道部の寮について語る時、まず一言目に言えることは 「 汚かった 」。二言目に 「 ボロかった 」。一部屋が、勉強?机を置くリノリウム床の部屋と布団を敷く6畳位の畳部屋の続き部屋 ( スイート ?) になっていて、4人定員。何年前に建ったかとか具体的な歴史を知っている先輩はいなかったし、興味を持っても調べるだけの頭は誰も持っていなかったから数字的な古さは分からなかったけど・・・壁は全て黄色く変色していたし、ところどころ剥がれ始めて何年間か分のほこりを貯めこんでいた。床のリノリウムは角がめくれ、天井にはいくつもヒビが入り、外から見ると建物全体が傾いていた。冷蔵庫やソファを動かすたびにゴキブリが走って、埃だらけのいつぞやかの全国制覇トロフィーの下に逃げて行ったりした。カーテンにはカビが生えていて、風が吹く度に独特な香りがした。そんなお化け屋敷みたいな所 ( 本当にお化けが出るという伝説もあった ) で林田先生と、先生の家族と、選手30人くらいで3年間過ごしたわけだ。次の日の練習にビビりながら仲間たちとワイワイガヤガヤ夜更かししたり、泣きながらケンカしたり語り合ったり、とにかく楽しい寮生活だった。毎朝掃除があってどう頑張っても落ちない汚れと戦ったり、夜中こっそり廊下を歩いていても足音が響いてしまって先生にバレたり、色々と生活しにくいところもあったけど、僕を含めて生徒全員がたぶんあの寮を愛していたと思う。
そんな寮も一昨年の春、遂に取り壊されてしまった。我々の代と一緒に卒業した感じだ。耐震強度の問題らしい。寂しいけど、あの寮なら確かに地震がきたら壊れそうだった。
それに比べれば今の慶應柔道部寮は築3年目くらいで新品同然。お化けも出ないし、怖い人もいない。新入生諸君は、何も心配することなく入寮してきて欲しい。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳