第226回:気まぐれな神様
何をやっても上手くいかない日があれば、何をやっても上手くいく日がある。とかく人は上出来な一日を忘れて、上手くいかなかった日に「いっつもダメなんだから」とか「何で自分ばっかり」とか、ネガティブmaxな思考になりがちである。何かにつけて運が味方した一日をしっかりと心に留めておけば、多少厳しい一日があっても「こんな日もあるさ」と前を向いていられるはず。とぼくは思う。だから今回は、何だか上手い具合に事が運んで楽しかった夜を記録しておく。
7月23日水曜日。ずっと薄い雲が空を覆っていて、突き射すような暑さこそないものの、ムシムシうだうだと空気の重い一日だった。役立たずな雲の向こうで、ボンヤリした太陽がゆっくりと水平線に消えていく頃、僕は院の同級生2人と江の島の海岸に座っていた。この日までに提出しておかなきゃいけないいくつかのレポートをSFCで投函した帰りの道草だ。大学生の時と違って学期末が忙しく、何だかんだ今年初の江の島。砂浜にはもう海の家なるものが我物顔で建ち並び、真っ黒に日焼けしたのがそれぞれ数人ずつ集まって楽しそうにビールを飲んでいる。江の島に向かって伸びる橋を、必要以上に車高を低くした車や、必要以上に大きな音を鳴らすバイクや、必要以上に化粧を塗り重ねた女たちが行ったり来たりするのを眺めた。
僕らの腰かけた石段の隅に、潮風に晒されてフニャフニャになった一枚のパンフレットが落ちていた。何の気なしにそれを眺めると、何やら7月23日19時20分から鎌倉で花火大会があると書いてある。
「あれ? 今日。30分後」
こんなこともあるんだな~、と3人で車に乗り込み、打ち上げポイントの由比ヶ浜に向けてのろのろと走り出した。先の方で通行止めになっていることもあって、道路は既に大渋滞。同じく花火を目的とした人の乗る夥しい数の原付やら自転車やらが渋滞中の車の間を埋めている風景は、アジア選手権で行ったバンコクのそれを思い出させる。
ついに全く動かなくなった車。しかしそれが良かった。花火が上がり始めて終わるまでの一時間、進まない涼しい車の中で、のんびりバッチリ花火を観賞することができたのだ。ちょうど打ち上げの終わる20時20分頃に僕らの車は渋滞の由比ヶ浜を通過して、そのままスイスイと横浜への帰路を辿った。
特に計画した訳でもないのに、やたらとスムーズに事の運ぶ夜だった。パソコンと向き合う毎日に少しまいっていた僕にはとても良いリフレッシュになった。24日木曜日から地獄のような夏の合宿ラッシュを迎える。このノンビリ楽しかった思いを胸に、しっかりと頭を切り替えて怪我なく全て乗り切れるよう頑張ろうと思う。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳