第231回:非現実的な観光

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ほぼ毎日練習が入っているからちゃんとした観光は出来ていないものの、昨日の夕食後、ホームステイ先の先輩(毎回「先輩」と簡単に書いてしまっているが、慶應柔道部の先輩で著名なジャーナリストであられる)の奥様が軽いドライブ観光に連れて行って下さった。ホワイトハウス、最高裁判所、国会議事堂、ワシントン記念塔、リンカーン記念塔、ベトナム戦争・朝鮮戦争慰霊碑・・・。夜も遅かったし、博物館や図書館の中には入らず車窓から、たまに車を降りて歩きながら、その景色を楽しんだ。僕なんてそれぞれの建物の持つ歴史や背景などの知識はほとんど持っていないけれど、それらを一つ観るたびにとにかく色んな映画のシーンがフラッシュバックのように重なっていった。
「ナショナル・トレジャー」でニコラス・ケイジが独立宣言書盗んでたな、とか、「ホワイト・ハウス・ダウン」でテロリスト達が暴れまわってたな、とか。巨大なリンカーンの石像を観た時は顔がちゃんと人間のもので安心した。どうやら地球はまだ猿に征服はされていないようだ。

奥様は「そんなに柔道ばかりしていては、ワシントンに来た実感が持てないでしょう」と僕を連れ出してくれたのだ。しかしこの、映像であまりにもたびたび見る光景を前に、僕は映画の中に迷い込んでしまったような感覚に陥った。20数年間映像で見慣れすぎたそれらの光景に、いつの間にか僕は、どこか遠い遠い物語の世界のものであるような錯覚を抱いてしまっていたようだ。ワシントンに来た実感どころか、現実の世界にいる実感を失ってしまうなんて、なかなか面白い体験かもしれない。もう数日間これらの建物を観察して、触れて、まずはこれが現実の世界であることをしっかり認識しなくてはならないようだ。

2014,8/27

更新:2014-08-29
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳