第247回:今年最後に書いておくこと
先日ある授業のゲストとして、ハードル走者の為末大選手が講義をしてくれた。そのお話の中で最も印象に残ったのは“トップアスリートの目標設定の仕方”だ。
要約させて頂くと・・・いわゆる成功したスポーツ選手の目標の置き方には大きく二つのタイプがある。それは、幼い頃から将来を明確に描きそれに沿って毎日の努力をこなしてきたタイプと、目の前に置かれた課題や敵を一つ一つ乗り越えていくうちにいつの間にか大きな舞台で活躍していたタイプだ。要するに、どんなに離れた目標であってもそれに対して高いモチベーションを持って日々生活できるタイプと、あまり遠くは見ないけれどその場その場で自分のすべきことを着実に実行し積み重ねていけるタイプ。
イチロー選手や本田圭佑選手は、言わずもがなの前者。小学生の頃に書いた作文が有名だ。でも一歩引いてみれば、彼ら以外にも数えきれないほど大勢の子供たちが夢を描き、何らかの形で記している。確かに有言実行は凄いけど、あくまで彼らの成長は確率論。たまたま面白いことを書いた子が成功したという話。逆に、為末さんの経験上、小さい頃からハッキリ目標設定していた訳ではないけれど、いつの間にかオリンピックに出ていた、と言う選手が実はたくさん存在する。
「小さい頃からの目標を見事叶えた」ってのはいかにも日本人の好きそうなサクセスストーリーだ。逆に「やるべきことを積み重ねていけば成功できるんだから、そんな背伸びした夢なんて持たなくていい」ってのはどうやったって見栄えが悪い。だからメディアは前者のタイプを見つけては持ち上げて、後者にはとことん冷たい。例えば柔道の場合、試合前の会見で目標を“優勝以外”に持とうものなら袋叩きにされてしまうだろう。
目標設定にしても、メディアの在り方にしても、どちらが正しいかは難しいところだ。でも、生まれ持ったタイプに沿った生き方をするのが最も効率が良いのは間違いない。無理して常に高い目標を描き続けるのは、とてもキツいことだからだ。
こんなことを書かせてもらってはいるが、実は、業界に染まった僕もやっぱり後者に対して牽制している部分があった。何となく、後者であってはいけないような気がしていた。でも今回為末さんのお話を聞いているうちに、自分は目の前のものを一つ一つ積み重ねていくタイプだと確信した。もちろん世界一になりたいって夢は強く持っているけれど、今の自分にそんなことを言う資格はないんじゃないかという弱気な気持ちと常に戦っていた。悲しいけれど少し背伸びしていたかもしれない。だからこれからは少し考え方を変えて、夢はひとまず先の方に置いておこう。そして、今の自分が目標にするべき身の丈に合った大会を一つ一つものにしていくことに全神経を集中していこうと思う。
今日で2014年が終わります。大きく環境が変わった今年、比較的調子が良かったにも関わらず最後の失敗で大きく沈んでしまった一年でした。相変わらず情けない自分ですが、色々と改革をして来年また挑戦していきたいと思っています。応援して下さった方々、本当にありがとうございました。来年もどうぞよろしくお願い致します。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳