第269回:振り返る場所
今月中ごろの土曜日、僕が昔お世話になった町道場の集まりに参加してきた。そこの先生の50歳を祝う会だった。
このブログの前文には中学以降の経歴しか書いていないけれど、僕は東京都青梅市の出身だ。小学校は地元の市立で、柔道は小学1年生入学と同時に始めた。今回50歳を迎えられた先生には小学1年生の最後あたりから東海大相模高校に入学するまで、およそ8年間お世話になった。僕が初めて真剣に柔道と向き合った場所、といったところだ。
「町道場」と書いたが、正確には「柔道教室」。青梅市には市主催のこういう教室が6、7か所、だいたい各小学校学区内に一つずつという形である。そのほとんどが市の体育館に自分たちで畳を敷いて練習する。各師範はだいたい近所に住む柔道経験者のオジさんお父さんたちだ。驚くことにこれらの教室は全て無料、指導者はボランティアである。先生たちは普段の仕事の合間を縫って、仕事を終えた夜や休日返上で教室の子供たちの指導に当たるのだ。僕自身子供の頃は当たり前に享受していたこの恩恵も、今仕事を持とうとする年齢になり、あるいは都会の有料道場をたくさん見るうちに、想像を絶する柔道愛の上に成り立っていることが分かる。現在スポーツビジネスや経営を勉強している者としては、両手離しで「素晴らしい、正しい」と言うことはできない制度ではあるが、日本柔道界の一端をこういった名もない先生方が支えていることは間違いない。ただただ感謝である。
今回の会に集まった道場OBOGの中で、大学卒業後も競技柔道をやっているような物好きはやはり僕くらいなものだったけど、先生をはじめ、みんな未だにしっかり応援してくれていて、試合結果もけっこう知っていてくれる。自分が来た道を振り返る場所があるのは良いものだ。今月前半少しショボくれていた僕も、また気持ちを入れ替えて頑張ろうと思った。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳