第270回:田舎の夜遊び
前回の記事に書いた青梅の出身道場の集まり時の話。そもそも開会が20時近くと遅かったのもあり、二次会のカラオケを解散する頃にはもう深夜3時を回っていた。帰る方面と人数的にタクシーを3台、フロントでお願いすると「最初の1台は15分~20分で来られるけど、3台目になるとたぶん1時間くらい掛かるみたいです」と言われた。耳を疑いながら個室に戻り、メンバーにそのことを告げると、「まぁそうだろうね」みたいなリアクション。青梅ではこれが当たり前なのか。そういえば僕は中学から私立で、夜遊びが出来る年齢になってからは田舎に住んだことがない。軽いカルチャーショックを覚えながら、「青梅もいちおう東京なんだけど・・・」といつも通りの負け惜しみを誰に言うでもなく一人こぼした。
西へ帰るのは僕だけだったので、僕一人用の1台をキャンセルして歩いて帰ることにした。4kmほどの行程、若干の酔っ払いにはなかなか気の遠くなる距離だ。人どころか車もほとんど通らない薄暗い道をトボトボと歩いていると流石の僕も少し寂しくなったから、ポケットのiPhoneでMr.Childrenの新しいアルバムを流して、それを近所迷惑にならない程度に口ずさみながら進んだ。何となく都会の夜は危ないって思っていたけれど、確かに色んな人間が密集しているから危険なこともあるけれど、田舎の夜道って何でも好き放題できそうでかなり危険。これじゃ女の子の独り歩きは間違いなくアウトだ。自分が男で、いちおう格闘家で、100㎏を超える大きさに成長していて良かったと思った。
一人で、軽く酔いながら静かな田舎道を歩いていると、脈絡のない思考がつらつらと頭の中を巡る。途中いかにも梅雨っぽい霧雨に見舞われたりすると、なんだか村上春樹の小説の最後の方にこんな感じのシーンがあったなぁなんて。確か主人公が親友を亡くし悲しみのなか故郷を訪れる場面。大した雨じゃないんだけどいつの間にかシャツがグッショリ重くなる感じ。自分の小学校の学区内の東端に入ると、友達の住んでいた家やよく遊んだ公園なんかがあって、たくさんの記憶がボンヤリと浮かんだ。
家まで残り1㎞を切ったあたりで初めて1台のタクシーを見かけたけれど、ここまで歩いたんだから妥協はできないとスル―してやった。家に着いたのは4時を少し回った頃で、空は少し白んでいた。酔いはほとんど覚めて、足には程よい疲労感がある。毎度毎度こんなんじゃ飲みに行くのもしんどいけれど、たまにはこういう経験も悪くないな・・・なんて思いながら深い深い眠りに就いた。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳