第273回:クルージング

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 梅雨が明ける寸前の週末、久しぶりに文句の付けようのない晴天が広がった日曜日、僕らは海に出た。ある先生が持っておられる船に同級生数人と乗せてもらったのだ。正式な分類と呼び方を知らないのでとりあえず「船」と書いたが、全長50フィートのエンジン付きヨット(帆船)である。50フィートって要するに15mくらいな訳で、なかなかの大きさである。普通の人が持てるような代物じゃないし、増して普通の学生が乗れるような代物じゃない。つまり僕は人の縁にかなり恵まれたかなり運の良い学生というわけだ。

 午前中に逗子マリーナを出港し、江の島を5時の方向に観ながら南南東へおよそ3時間。出発地から直線距離でおよそ15㎞のシーボニアマリーナで錨を降ろして昼食&海遊び。だいたい同じ道のりを同じ時間かけて、夕方逗子に帰港。出港と帰港の時以外ほとんどエンジンを使わず、帆を使ってのんびりとクルーズした。
 帰路につく頃には学生のみんなも段々船のあれこれに慣れてきて、順番に30分くらいずつ舵を握らせてもらった。(ここに書く前に心配で一応確認したけど、船に乗っている誰かが免許を持っていれば、無免許の人間の運転も合法らしい。)みんなが舵を握っている画はちゃんと「クルージング」って感じなんだけど、僕が握った画はどうしても「海賊」か「漁」に見えてしまう。なんとも不思議である。
 動力がエンジンじゃないから、前に進むには風を読んで帆で捕まえる作業が必要になる。当日は天気が良い分風も弱々しく、これがなかなか難しいのである。全身の神経を風や波に傾けると、青梅で野生児だった頃の感覚が戻ってくるようで心地よかった。

 今回のクルージング、文章からもあふれ出ているとは思うが、極控えめに言って最高の体験だった。海に出ていた時間は、言葉にするのが難しいほど開放的で贅沢だった。
 ただ、一つ困ったことがある。人生の目標に「船を買う」が追加されてしまった。ザッと聞いた話によると、船は車の10倍、飛行機は100倍の値段らしい。やっぱり、金持ちにならんといかんわけだ。

更新:2015-07-25
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳