第279回:競技格差(2)
もちろんルールの明快さ以外にもいくつかの要因は考えられる。例えば“走る”という行為は誰にでも身近で、トップ選手がたたき出す記録がどれほど凄いものなのか、ある程度イメージすることが可能である。それに対して柔道は、誰々選手がどの位強いのか、それに勝つのがどれくらい難しいのか、見ている人には分からないわけで、その凄さを実感するのは難しい。
しかし今回はまずルールについて考えてみよう。前回書いた基本ルールに関して先の3競技の扱いの差から、それが単純であればあるほど観客は競技に“純粋に”興味を抱くのかもしれないという仮説をたててみる。だとすれば結論として、柔道を人気スポーツにするのはとても難しいと言えるだろう。「指導」や技の「ポイント」の構成や比重をあれこれイジったとしても、取っ組み合って技を掛けて相手をこけさせるという根本的ルールは、単純に数値化することが不可能である。
そんな中でも、柔道をなんとか観て楽しい競技にすべく、世界の柔道関係機関は我々発祥国には思いもつかないような改革をいくつもしてきた。改革当初には、見やすいカラー柔道着を導入した。最近ではよりダイナミックな攻防を作るために下半身への攻撃を禁止した。これらの改革が正しいかどうかは分からないから、それら改革に常に反対してきた日本柔道界を単純に非難はできない。が、変わることを恐れて動かない、あるいは何も考えようとしないのでは、現状の扱いの悪さに文句を言う権利はないと思うのだ。
どうすればみんなに興味を持ってもらえるか、楽しいと思ってもらえるか、TVで大きく扱ってもらえるか。関係者一人一人が競技の存続を賭けて真剣に考えていかなきゃいけない課題である。
最後に、現段階での世界柔道における日本人の結果を書いておこう。大会3日目6階級が終わって、金3個・銀2個・銅2個。申し訳ないけれど、世界陸上での日本人の結果とは比べ物にならない。もし陸上を観て世界との圧倒的な壁を前に悲しい気持ちになったら、ちょっと遅くまで起きていて柔道でお口直ししてはいかがだろうか。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳