第281回:小さな夢の一つ(1)

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 9月5日・土曜日、横浜日産スタジアムに Mr.Children(以下:ミスチル)のライブを観に行った。これは僕にとって、人生初のライブだったと同時に、死ぬまでにやっておきたい小さな夢の一つを達成した瞬間でもあった。
 夢だなんて大袈裟だと言われるかもしれない。たぶんこんなのは、ほんの少しの行動力と一握りの“運”があれば、そう難しくない些細なものだ。試合に勝つことの方が何百倍も難しい。だけどいつも何かしらの理由に阻まれて、あるいは日頃の行いのせいか“運”が足りなくて、「いつか…いつか…」と言っているうちに、思い始めてから6年も掛かってしまった。だから僕には、もちろんミスチルの曲が大好きなのもあるけれど、非常に思い入れのある感動的なステージだったことをまず始めに書いておきたい。

 16時開場-17時開演だと言うのに、14時頃には既に新横浜駅がザワめき始めていた。15時頃からグッズ販売がスタートする故のことだろうが、みんななかなか筋金入りのミスチルオタクである。かくいう僕もその時間には新横浜にいた訳だが…。
 駅からスタジアムまでのレストランや居酒屋では、ミスチルのライブDVDなんかを大音量で流していて、何だか街をあげたミスチル祭のようだ。僕もそんな雰囲気にまんまとテンションを押し上げられ、音に誘われるままに一軒の居酒屋で一緒に来た友達と2杯ほどビールを煽ってから会場へ向かった。
 僕は普段、何事にも冷静な態度で臨むことを心がけている。そして、自分で言うのもなんだけど、割とそれを実践できているつもりだ。しかしこの時ばかりは、長年夢見てきたものがもうすぐ実現する高揚感と、360度自分の好きなもの(自分と同じものを好きな人たち)で埋め尽くされている興奮と、先刻入れたお酒の力で、いつの間にかガラにもなく大はしゃぎしていた。当然サイズが無いTシャツをまるでコンプレッションウェアのように無理やり着て、タオルを首に巻いて、小さなリストバンドを血が止まりそうになりながら手にはめて、頬にタトゥシールまでして、今思い出すとなかなか恥ずかしい身なりでスタジアムの中に乗り込んだ。
 会場内全てが満員電車のような人口密度で、自分の席にたどり着くまでに30分ほどかかった。抽選で与えられた席はアリーナ・正面向かって左側の前から28列目。ステージからの距離およそ25m。柔道家に分かりやすく例えるなら、全日本選手権を一番下のアリーナ席最後列から見るくらいの距離。全部で6万9千人が観に来ていることを考えれば、間違いなく相当の当たり席だ。17時を少し回った頃、まだ陽は沈んでいないものの分厚い雲が満遍なく空を覆っていて、辺りは薄暗い。ステージバックスクリーンのイントロが終わるか終わらないかのタイミングでスポットライトが一斉にステージ上を照らし、特に気取った演出なくスタスタと今夜主役の4人が現れる。そのまま一言も発することなく、ズバッと一曲目「未完」がスタートした。

更新:2015-09-16
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳