第283回:小さな夢の一つ(3)
運良く、会場の前の方に座っていた僕らだが、その分帰るのにはとても苦労した。厳格な退場規制がしかれ、後ろの方から順番に誘導されるかたちだったが、僕らはその最後の1グループとして会場を後にした。スタジアムから小机駅と新横浜駅に伸びる道は既に人で溢れかえっていて、バスもタクシーも捕まらない。人の渋滞の中、チビチビと進み、やっと新横浜駅に着いたら今度はホームがいっぱいで入場規制がしかれている。ライブ前の人ゴミは、心にゆとりがあって難なく待っていられたけれど、このライブ後のやつはなかなかしんどい。次の機会があれば、ここのところもう少し対策して臨みたいものだ。
およそ1時間かけて何とか新横浜を抜け出し、一緒に観に行った友達と関内の居酒屋で簡単な食事をした後、何故か自然な流れでカラオケに行った。当然歌うのはミスチルの曲ばかり。あれだけの歌唱力を見せつけられた後で、何となく自分たちも上手に歌えるような気がしたのだが、いざ歌ってみればいつも通りの下手くそな歌である。実際にやってみると改めて彼がどれほど難しい曲を歌っていたのかが分かって感心すると共に、圧倒的才能を前に、努力するのがバカらしくなるような挫折感さえ覚えた。下手に歌手なんて目指してなくて良かった。柔道家で良かった。自分でも良く分からない理屈で落ち着き、一日を終えた。
こうして、小さな夢の一つを見事に実現させ、僕は人間的にほんの少しだけ豊かになった訳だ。こういった、楽しい脇道のお蔭で、人生全体が上手くいったりするものだ。あまり多くのエネルギーや時間は割けないけれど、とりあえず次の脇道は“スペインに行ってFCバルセロナvsレアルマドリードC.F.の試合を生で観戦すること”である。また何年かかるか分からないけれど、片手間で計画を練っていきたい。
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳