第49回:僕のお正月

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「 やれやれ、こんな時にまで仕事かよ 」 という顔のサラリーマンと一緒に東横線横浜行に乗り。
「 今から帰るよ 」 と大きなバッグを持って電話している人たちと横浜線八王子行に乗り。
「 やっぱ柏原っしょ 」 と箱根駅伝のパンフレットを手に熱く語り合うジジババたちと小田急線箱根湯本行に乗り。
年末年始、世間のみんながどこへ行こうと、僕が向かうのはやっぱり母校・東海大相模高校なのである。

 相模高校では毎年12月30日~翌年3日まで、越年合宿という非常識なイベントがある。僕はこれに桐朋中学2年生の時初めて参加した。それが僕の人生の分岐点ともなった、今回のストーリー。相模高校との出会いである。
 中学2年の夏の関東大会、僕は当時相模中学3年のT・K選手と当たり、判定まで持ち込んだ ( 3-0負 )。それで相模の監督に目を留められ 「 一度練習に来て欲しい 」 と声をかけられた。当時、桐朋中学でヌクヌクと平和的柔道をしていた僕は縮みあがった。声を掛けられたままぐずぐずするうち秋が過ぎ冬になって、結局その年の越年合宿が相模の練習への初参加となってしまった。たった一人で初めての参加でまるまる合宿に行くなんて。友達なんて一人もいない。みんな鬼のように強い。鬼に見える。その上に練習は信じられないほど長い。地獄だ。
 とにかく怖い。それでまず 「 初対面の人には敬語 」 を徹底。タメだろうが年下だろうが敬語 ( 今でも、「 あの時先輩、自分に敬語だったっす 」 と後輩に馬鹿にされる )。乱取りではちょっと頑張りすぎちゃって相手がイラっときてるように感じたら適度に投げられる。怖くて風呂にも入れない。飯のおかわりにも行けない。ひたすら目立たないよう24時間厳戒態勢でプルプルしながら合宿が終わるのを待った。
 最終日1月3日。午前練をやって、みんなでお昼ご飯を食べて合宿終了なんだけど、「 御馳走さまでした 」 の瞬間に、誰よりも早く部屋に布団を片付けに行った。荷物をまとめて半分ダッシュで帰ろうとしていると、食堂からのんびりと戻って来た相模の人たちと行き会ってしまった。
「 早っ ! もう帰んの ? お疲れ様、またおいでよ 」 とニコニコと声を掛けてくれる。
 「 ありがとうございました。お先に失礼します。またよろしくお願いします 」 と答えた瞬間、もう全力ダッシュで逃げる逃げる。もう二度と来ない、死んでも来ない、来たら死ぬ、来てたまるか ! と固~く心に誓いながら。

 今から思えば鬼たちは優しかったし、思い切って地獄に飛び込んでみれば良かったんだけど、何しろ怖くって。それが今では・・・っていう話なんだけど。いや、人生分からないものです。

 何はともあれ今回も先輩、後輩、同期生みんなと一緒に苦しくも楽しい練習で年を越した。4日からは慶應柔道部の寒稽古、8日からは全日本合宿。これが僕のお正月。

こんな僕のブログを読んでくれている皆さん、今年もどうぞ宜しくお願い致します。

 2011/01/06

慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳