第50回:地獄見た
「 おい、慶應ボーイ ! 行け、攻めろ! 」
初めて篠原信一監督にかけてもらった言葉は 「 慶應ボーイ 」 だった。その言葉に苦笑いしながら乱取り中、思わず振り返ると、
「 慶應ボーイで反応すんな、アホ ! それ語れんのは、スキーとかテニスやってる奴らだけじゃ。柔道家はそんなチャラチャラした呼ばれ方しないんじゃ ! いいから行け ! 」と笑われた。やっぱり柔道家ってのは特殊な人種らしい。
そんなこんなで8日~14日までNTCで全日本合宿があった。初めてのシニア・ナショナル合宿だ。今までの人生、相模高校とか合宿とかで色んなキツいことをやってきたつもりだったけど、今回の合宿は、そんな 「 キツいこと 」 の中で間違いなく一番のキツさだった。大人しくスキーやテニスやって慶應ボーイ語っていれば良かったかもしれないと本気で思った。
何がそんなに大変だったのか ? そう聞かれると何だろう、戸惑ってしまう。本当に全部が全部キツかったね。
朝のランニングトレーニングで足ガクガクになって、午前練で締められ、関節取られ、抑えられ、午後練でボロ雑巾のようにメチャクチャに投げられて。久しぶりに寝技でこれでもか、これでもかとオモチャにされた。久しぶりに立技で息が詰まるほど畳に投げつけられた。要するに集まっている面子の中で僕が一番弱いわけなんだね。
こんな感じで終わりの見えない果てしない地獄だったけど ( メニューを告げる監督が本当に鬼に見えた )、 何とか現世に戻ってきて、さて一番の問題は、
強くなったのか?
たぶんなった。少なくとも怪我病気無く乗りきったことで、半端ない達成感と一緒に自信が付いた気がする。少し休んでからどこかに確かめに行くとしよう。
最終日、日本に帰って来ていた井上康生先輩が練習を見に来た。帰り道で、「どうだった? 」と声をかけてくれて、「 みんな強すぎて、もうボロボロです 」と答えた。「 慣れだよ、慣れ。少しずつ頑張れ 」
慣れか。慣れるにはもう少し時間がかかるかもしれない。また一から、一歩づつ。次を見ていくとしよう。