第53回:慶應ボーイ VS 相模の野獣
慶應柔道部はまだ試験休みの2月1日、慶應の同級生二人を無理やり引きずって相模高校の練習に連れて行った。慶應高校と相模高校は同じ神奈川。高校時代に県武道館でさんざん恐怖を味わってきた二人だから、練習に行くまで相当ビビってた。
外から相模柔道部を見るとやっぱり怖いのかな。柔道はベラボウに強い、騒がしいが何を考えてるか分からない、危険な人間の巣窟に見える。実際にその通りなんだけど、いざ一緒に練習するとみんな優しい。一学年に一人くらいヤンチャがいるにはいるが、イジめられることは、ない。慶應の二人も長~くてキツ~い練習を終えて、たくさんのアザや筋肉痛と一緒に貴重な経験をもらえたことだろう、たぶん。また今度、別の人も連れて行こうかな。
次の日2日、慶應の練習は午後からだったから俺は部屋で至極平和に寝ている。11時半に電話が鳴る。まだ目覚めていない頭と、コンタクトを入れていない使い物にならない目ん玉で、誰だよめんどくさい、「 はーい 」 と出ると、
「 もしもしっ! 」
聞き間違えようがない、ボスの声だ。その瞬間跳び起きて、頭がフル回転して、心臓が大きく鳴り出す。二月でも汗が出てくる。俺、何か悪いことしたっけ ? と必死で自分を問いただす。寝起きを誤魔化すためにやたらと大きな声ではっきりと、
「 あ、おはようございます!!」
と言う。その瞬間に、しまった、もう昼だ、と気付く。また汗が出る。やたらと目覚めの良い朝、いや昼、になってしまった。
結局 「 また慶應生を引き連れて来て、今度は部員に勉強を教えてほしい 」 という話だった。このボスの怖さは相模柔道部員でなくては分からない。卒業すると、もうただガハハと笑う優しい先生なんだけど、不意打ちは寿命が縮む。
そんな朝。いや、昼。