第67回:困ったぜ

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 4月・5月のこの時期、やっと部活の始まったのだろうラグビー部とかアメフト部とかの少し体の大きな厳つい新入生たちが日吉の街を歩き始める。特に駅から我々の合宿所の道の中間地点に彼らのグラウンドがあるもんだから、俺らが授業なり練習なりで日吉駅方面へ行くだけでかなりの人数とすれ違う。まだ練習が始まったばかりの彼らは、先輩とその他の人間との区別が付いていない。だから俺みたいな見た目がラグビーやらアメフトやらっぽい奴には誰彼かまわず大きな声で挨拶してくる。
朝、学校に行く時なら
「 おはようございます !」
夕方、練習でくたびれて帰るときには
「 お疲れ様です ! 失礼します 」
街中で周りに人もたくさんいる。みんなが一瞬こちらを見る。困る。無視するわけにもいかないし、とりあえずふんぞり返って
「 おう ! お疲れ 」
と返す。これは去年、自分自身まだ一年生の時に同級生に挨拶された時でも、とりあえず先輩面してこうしていた。昔っから偉そうにしてるのは得意なのだ。

 こんな感じだから6月くらいになると更に困ったことになる。俺が本当は部の先輩じゃないことが、だんだんとバレてくるのだ。
すれ違うと
「 あれ、実は違うらしいよ。柔道部とからしいよ 」
とひそひそ声がかすかに聞こえてくる。あれ、挨拶したら普通に返されてたんだけど・・・みたいなことを言ってる。知らないよ、そっちが勝手に挨拶してきてたんだから ! と心の中で呟きながら、また今年も偉そうに日吉の街を闊歩する。

更新: 2011/5/19
慶應義塾大学 総合政策学部 藤井 岳