第29回:ムーアの法則
ムーアの法則という言葉がある。世界屈指の半導体メーカーであり、PCやスマートフォンの全てに必要な部品であるCPUの開発において先駆的な立場にあるインテル社の創業者、ゴードン・ムーア氏の言葉だ。
「半導体の集積密度は18~24ヶ月で倍増する」
という言葉で言い表されるこの法則は、少し意味合いは違うが、わかりやすく言い換えれば「コンピュータの処理性能は2年程度で倍加する」ということになる。単純に、同じ部品スペースに、より回路が小型化集積化すれば、それだけ処理性能は向上するからだ。
もちろんこの言葉は「自然法則」ではない。「経験則」である。インテルやその他の半導体メーカーが生産を一斉に停止すれば、今後の二年間でコンピュータの処理性能は変わらないだろう。自然の摂理ではなく、経営者の経験則である。
とはいえ、この法則はこれまでのコンピュータの短い歴史の中で、充分に当てはまる法則として機能してきた(もちろん、「これから」機能するかについては言うまでもない。倍々算を繰り返していけば、この法則は素粒子レベルで構成された半導体を導き出すことになる)。
僕はこの法則に、人類の歴史そのものを感じ取ったりする。凄まじいスピードで進化していき、歴史を積み重ねていく人類の科学史。最初の数万年は木の棒や石器を使っていたのが、次の数千年で銅や金属を加工するようになり、貨幣制度や経済、哲学が生まれ、さらに次の数百年では産業が生まれ鉄道が走るようになり、電気の灯がともるようになった。そしてここ数十年の間に、人々の生活は知恵であふれるようになり、生活そのものをネットワーク化してしまった。
こうした人類の歴史がこれからどこに行くのか?ということは、宇宙の始源の状態は?という質問と同じくらいに、誰もが知りたがることである。
ムーアの法則は近頃になって当てはまらなくなってきたと言われている。物理的な性能向上の限界点に達しつつあるからだ。
では、人間の歴史の、科学的進歩の「物理的限界点」はどこにあるのだろうか?そのブレイクスルーは存在するのか?
ブレイクスルーがあるとしたら、コンピュータから生まれるのか?あるいは、既存の数学や幾何学、科学体系を全て打ち壊す(あるいはスピリチュアルな)進化であるのだろうか。
こういう価値観や問題意識は、昔から僕達よりもアメリカ人が強く持っている。ハリウッド式のSF映画のシナリオなどは、たいていがその問題意識に沿っている(と勝手に考えている)。