競争とモチベーション


「国営だと効率が悪く、民間がやると効率がよい。国営だと競争がなく従業員のモチベーションが低い。民営化できるものは基本的に民営化した方がいい。」

「日本の農業は守られているからいまだに非効率的で海外に勝てない。一方で、規制のない産業は世界の企業と競争し鍛えられて強くなった。農業にももっと競争の原理を導入して生産性を挙げるべきだ。」

上に挙げたのは、競争の大切さに関してよく言われることで、私も概ねそのように考えてきた。競争は進歩の源泉で、競争がないとぬるま湯に浸かったような状態でだらけてしまう。だから共産主義はうまくいかなかったし、競争のない産業は伸びない。企業の中でも個々の社員のモチベーションを上げるために、年功序列でなく成果主義を採用するところが増えている。成果を明確にしてそれを競わせることでモチベーションが生まれる。

一方でモチベーションを生むのは成果の競争だけではない。よりよいものを創りたい、よりよいサービスを提供したい、という気持ちは競争がなくても存在する。同じような価格帯の飲食店について、チップの習慣のない日本のサービスとチップの習慣のある国のサービスを比較したときに、前者の方が感じのいいことが多い。チップという明確な成果報酬がなくても顧客に対していいサービスをしたいというモチベーションが働いている。

しかし、日本においても、もし仮に一度でもチップ制度を持ち込んでしまったらチップなしで従業員のモチベーションを保つのは難しくなるのではないか。トランプでも麻雀でも初めは、ゲームそのものを楽しめる。しかし、一度少額でも金を賭けると、それ以降、金を賭けないゲームはやる気がなくなってしまう。賭ける額の大きさは不可逆的で大きくする方には動いても小さくする方には動かない。一度成果主義を取り入れると横並びの給料でその会社の社員のモチベーションを上げるのは難しくなるだろう。

個々の成果を明確にしてそれを競わせることのメリットは大きい。うかうかしているとライバルに先を越されると思うことがもっと頑張るモチベーションにつながる。科学は競争がなければここまで進んでいなかった。しかし、競争だけがモチベーションになって人間の進歩が成されたわけではない。もともと真理を追究したい、美しいものを創りたい、人に感謝されたい、といった根本的な欲求があったはずだ。モチベーションを上げるために過度に競争を促した結果、そういった根本的な欲求が失われるようだと勿体ない。


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