大学入試における公平性の難しさ


今月5日に「文科省、大学入試で差別禁止ルール化 全学部で来年度から適用へ」という記事を毎日新聞が掲載した。文部科学省が「大学入試で性別や年齢などの属性を理由に不利な扱いをしたり、成績順に従わず特定の受験生を合格させたりすることを禁止する方針を明らかにした」「文科省が入試の公正性が害されたと判断した場合は調査し、必要に応じて指導する」といったことが書かれている。

東京医科大などの「不適切」入試に対して、文部科学省が調査を行ってきた流れで、今年1月に「大学入学者選抜の公正確保等に関する有識者会議」が設置されている。上記の毎日新聞の記事はこの有識者会議の審議経過報告が元になって書かれたものだ。記事を読み、文部科学省がルールを厳格化し、入試の自由度を制限する方向に進むのかと懸念して、「大学入学者選抜の公正確保等に向けた方策について」なる報告書を一通り読んでみた。読んでみると記事を読んで受けた印象とは異なり、大学入試選抜の責任主体は各大学であることが再確認されており、「公正性」を確保することの難しさについても議論されていてバランスの取れた内容になっていると感じた。

報告書の中では、画一的なテストで点数だけで評価する「公平性」から多様な力を多様な方法で評価する「公正性」に焦点を移しつつある大学入試改革の現状を評価しながら、その公正性の確保の上で留意すべき点を3つ挙げている。1点目は、一般入試の規模が縮小し、AO推薦入試の規模が拡大する中で、入試の多様化が進み、一人一人の力を評価するような入試が求められていること、2点目は、入試の透明性が求められる一方で、面接試験などで評価の観点の詳細を明らかにしてしまうと受験生が「対策」を行うことで本来必要な評価ができなくなってしまうリスクがあるため、透明性と機密性のバランスをとる必要があるということ、3点目は、公正性は国や時代によっても変わるものであり常に社会一般の感覚を踏まえたものにする必要があるということ。いずれも的確な指摘であり、公正な大学入試を実現する難しさを端的に示している。

大学受験を大学と受験生のマッチングのプロセスと考えれば、お互いのニーズが合ったマッチングを実現するために入試の多様化は必要だ。その中でもし大学側のニーズがそこにあるのであれば、特定の属性による特別枠を設定することを禁止すべきではない。また、特定の有力関係者の口利きで合否に影響が出るようなことはあってはならず、合否判定に用いる要素は募集要項で明確にすべきであるが、あまり限定してしまうと本来の意図に沿わずそこだけをひたすら準備する受験生が出てくる可能性があり、ある程度抽象度を保った表現にせざるを得ない。さらに、たとえば性別で出願資格を限定する女子大は時代が変われば公正とは言えなくなるかもしれないが、現代の社会では違和感なく受け入れられており、属性で差をつけることを一緒くたに否定すべきではない。

上記有識者会議においても大体そのような方向に議論が進んでいるようで今の大学入試改革の方向性を変えるようなことはなさそうだ。大学入試の出願要件や評価の方法は募集要項で明確に説明することが前提だが、大学が自由に決める形が望ましい。「公正性」には厳しく目を配らなければいけないが、大学の自主性が損なわれるようなことはあってはならない。


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