無駄と余裕


株式会社は利益を株主に還元することが求められる。株主の資本に対するリターンの割合はROE(株主資本利益率)と呼ばれ株式投資の上で重要な指標になる。ROEを高めるためには手元にある資金を効果的に活用する必要がある。株主としては企業に余剰の資金があることは必ずしも望ましいことではなく、すべての資金をしっかり活用してもらうか、使わないのであれば返してほしい、と考えがちだ。企業にとって借入金を増やすこともROEの向上につながる。株主が提供した資金だけでなく、たとえば銀行から借り入れた資金も活用することで、さらに大きな利益を生み出すことができるからだ。借り入れた資金に利子を乗せて返したとしても、利子の分より大きな利益を生み出すことができれば、株主に還元できるリターンも大きくなる。日本の企業はアメリカの企業に比べて全体的にROEが低い。経済産業省の資料によれば、2014年から2018年の5年間で日本の上場企業の平均ROEは8%から10%程度の範囲で推移しているが、アメリカの上場企業のそれは14%から18%程度になっている。

投資家の立場からしたらROEは高いに越したことはないようにも見えるが、余剰な資金を持っていないと不測の事態が起きたときに対応できなくなるリスクが大きくなる。ROEを高く維持するということは、個人が貯金を必要最低限にして使えるお金はすべて自分の活動に費やすようなところがあって、うまく回っているうちは最大の効果を生み出すけれど何らかの理由で回らなくなったときに一気に破綻するリスクを内包する。維持や持続という目的だけで考えれば、借入金はあまり増やさず、ある程度余剰の資金を持っていた方がいい。そういう意味ではアメリカの企業に比べてROEが低いからといって一概に日本企業のマネジメントがアメリカ企業に比べて劣るとは言えない。

危機に備えることは必要だがどのくらいまで想定すべきか、ということはとても難しい。厚生労働省は効率化を求めて昨年公立・公的病院の再編統合対象のリストを発表したが、今回のコロナ禍で見直しを求める声が高まっている。平常時にはあまり需要がなくてもコロナ禍のような事態が起きたときのために維持すべきなのかどうか。

どの程度余裕を持っておくかというところはその危機が起きる確率とインパクトを考えて判断するしかないが、大事なのは平常時に不測の事態が起きたときのことを適切に想定すること、不測の事態が起きているときには過度に反応し過ぎないこと、だと思う。平常時も危機のときも、つい「今」を基準に考えてしまいがちだがそうでないときのことも想像力豊かにバランスよく考えた上で判断するようにしたい。使わないものをため込んで効率の悪いのは嫌だが、かといって、危機のときに簡単に倒れてしまうことはどうしても回避したい。


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