理詰めと試行錯誤のバランス


50年前の1969年に史上初めて月に人を送り込んだ米国のアポロ計画は技術的な意味でもプロジェクトマネジメントという意味でも歴史的な偉業と言えるが、特に驚嘆に値するのはテスト環境と本番環境が大きく異なる中で、いわばぶっつけ本番のような形で地球への帰還まで成功させたことだ。もちろんそれまでの準備は周到に行われている。ケネディ大統領が1960年代のうちに有人月面着陸を果たす、と演説で宣言したのは1961年だ。初めて月面への有人着陸を実現したのはアポロ11だが、大統領の演説から8年の間にアポロ1から10までを含む様々なミッションが実行されてきた。初めは無人のロケットを飛ばし、経験を重ねた後に、有人の地球周回飛行に踏み切り、月周回飛行も成功させた。無人の月探査機の着陸も成功させている。とはいえ、有人のロケットを月に着陸させて、人間が月面を歩き、さらに、無事に地球に帰還させるとなると、それまでのミッションとは異なる次元の難易度になる。

ハードウェアでもソフトウェアでもあるいは形のない何かの仕組みでも、新しいものを作って実際に使ってみると大抵不具合がたくさん出る。それらを一つずつ修正して、改訂版を作り、再度試してみる、ということを何度も繰り返すのが工学的アプローチだ。理詰めで考えても事前に考えた通りにうまくいくことはほとんどない。あらゆるケースを想定したつもりでも想像力の限界からどうしても漏れが出る。したがって初めから完璧なものを作ることよりもテスト環境をしっかり用意して本番環境に移す前に十分なテストを行うということの方が重視される。

本番と同じような環境でテストをするのが難しい月面着陸のようなプロジェクトの場合はPDCA(Plan Do Check Action)のサイクルを回すのが困難で、そのため、ある程度理詰めで進めていかざるを得ないが、そうすると成功の難易度は高まる。それに比べれば大抵のプロジェクトは失敗できるテストの環境を作ることがそこまで難しくなくそこで改善を重ねることで本番環境での成功の確度を上げやすい。

ただ、足りないところは後から改善すればいいと思って、初めから完璧を目指さなくなるとそれはそれで効率が悪くなる。そこまで細部を詰めずに作ったものでは、改善すべき点をすべて洗い出すことができない。この辺のバランスは難しい。理想は、有人月面着陸とまではいかないものの、一発で成功させるような完璧さを目指しつつ、それでいて、うまくいかなかないことも想定して、テストはしっかりやる、うまくいかなくてもあきらめずに改善すべきところを改善していく、といったところだろうか。


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