安価な教育サービスと教育格差


CouseraやedXなどのMOOC(Massive Open Online Courses)はインターネットを通じて良質の学習コンテンツを無料で配信していて大きな価値を生み出している。米国をはじめとする世界の一流大学の教授の学習コンテンツを世界中の人が無料で利用できる意義は小さくない。しかし、こういった無料あるいは安価な学習コンテンツが教育格差をなくす、という主張は、一見説得力があるが本当かどうかは議論の余地がある。

教育社会学者である苅谷剛彦氏の「大衆教育社会のゆくえ」という著書によれば、少なくとも日本において確かに出身階層によって期待できる学歴に差がある(教育格差が存在する)が、それはトップスクール合格者の多くを私立高校出身者が占める今も、公立高校出身者が多くを占めていたときも変わらない現象だという。つまり、親の職業や年収は確かに子供の学歴に影響を与えるが、その傾向は高校の学費が高いときも低いときもあまり変わらない。これは裕福な家庭で親が経済力に物を言わせて子どもの学力を伸ばすというよりは家庭の環境の方が子どもの学力に大きな影響を与えることを示唆している。親の学業に対する考え方であったり、親がいろいろな疑問に答えてくれることだったり、家の中に本がたくさんあることであったり、そういった家庭の環境の方が、教育に回すお金があるかどうかということよりも重要だということではないか。とすれば教育サービスの価格を下げることが教育格差をなくす、ことにはつながらない可能性がある。

日本において親が学ばせたいと思っているのに、あるいは本人が学びたいと思っているのに、お金が足りないせいで学べない人はどれだけいるのだろうか?義務教育を受けて読み書きができるようになった後は学ぶ意欲さえあればいくらでも学ぶ機会はある。図書館で本や新聞を読むことができるし、書店で立ち読みもできる。さらにMOOCを視聴できるようなネット環境があれば、各種サイトにある無料の情報だけで無限の学びが可能だ。コンピュータプログラミングなどは、正規の教育で習った人より、ネットの情報から自分で学んだ人の方がむしろ多いのではと思う。世界のハッカーたちが学校や塾の先生からコーディングを習っている姿は想像できない。

MOOCが発展するのは歓迎するし、冒頭に書いたように付加価値も高いと思う。ただ、「教育格差をなくす」という観点からはそこまでの効果は期待できない。日本にもある無料またはそれに近い安価の教育サービスでも同じことだが「教育格差をなくす」ことが目的なのであれば、他にすべきことがあるのではと思う。


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