季節と香り


日本人として誇るべき日本のよいところはたくさんあるがその中でもはっきりとした四季の美しさは、古くから言われ続けていてもなお、言いたくなる。冬から春に変わるときに梅が咲き、桜が咲いて、だんだん空気が緩んでくると同時にいろいろなことが始まりそうな予感で前途洋々になってくる気持ちももちろん悪くない。しかし、急に涼しくなり、快適な一方で、少し次の冬を感じるせいか、憂いを帯びた感じの今の時期は春に劣らず好きだ。特に金木犀の香りがするといろいろな感覚が敏感になり音楽も心に沁みるし本を読んでも感動するし食べ物もビールも一年で一番おいしくなる。今年は秋刀魚があまり獲れていず、例年ほど食べられそうにないのが残念だが、梨や桃もあるし、秋刀魚がとれないくらいでは、大勢に影響がないのが日本の秋の素晴らしさである。

視覚、聴覚、触角、味覚に比べてあまり重要視されていない嗅覚だが、季節を感じるときには最も大事な感覚であるような気がする。音や映像のように記録して再生することがほとんどなされないためか、その季節特有の香りがすると、小さい頃から今までのその季節の思い出が一気に蘇る感じがする。思い出というのは頻繁に思い出していない方が、思い出した時にノスタルジアを感じるようだ。

本を読むときにずっと特定の音楽を聞いていると脳の中で、その本と音楽が強く結びつく。私はその感覚が好きで、一冊の本を読んでいる時にわざと特定の音楽だけを聴くということをする。そうすると本を読み終わった時に、その特定の音楽がその本と切り離せなくなる。ゴッドファーザーのテーマがゴッドファーザーの映画と切り離せないように。しかし、本を読み終わった後も、その特定の音楽を別のところで何度も聴いているとその音楽と本は徐々に切り離されていく。その音楽を聴いている別の環境とその音楽が結びつき、もともと強く結びついていた本との関係が薄まっていくのだ。時間が経つこととはあまり関係ないようだ。というのも本を読み終わった途端に、その音楽を聴くことを一切、断てば、しばらく時間が経った後でも、その本と音楽の強い結びつきは保たれるからだ。時間が経って薄れるのではなく、他の経験によって記憶が上書きされることで薄れる。そういったことを考えると季節の香りは貴重である。香りは簡単に、記録、再生ができないので、記憶の上書きがされにくい。その季節が来るまで思い出すことはあまりないし、逆にその季節が来たら一気にすべてが蘇る。

映像や音の記録、再生のお蔭で、私たちの日々の生活レベルは大きく向上している。タワーレコードのキャッチコピー、「No Music No Life」じゃないが、好きな音楽を自由に聴くことのできない生活は考えにくい。香りの記録、再生装置についてもどこかで開発しているということを聞いたことがある。それはそれですばらしいとは思う。しかし、一方で、香りの記憶くらいは、外部装置で記録、再生せず、自分の脳の中に仕舞っておいてもよいのかもしれないとも思う。


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