貢献の形


米Google社は数多くのサービスを提供しているがその多くは無料で使える。ネット検索はもちろんブラウザ、表計算、ワープロ、スケジュール、地図といった各種アプリケーションからスマートフォン用のOSまで無料で使用できる。ネット検索には広告が表示されるが、一部のアプリケーションでのサービスには広告すら出ない。だからサービスによってはGoogleに収入が全くないケースもあるはずだ。しかし、ユーザ基盤を広げることによって、結果的にインターネットにおける広告効果を上げて、その収入で賄う。議決権のある株式を制限していることもあり、広告収入がもたらす利益を自分たちのやりたいことに使える。

米Microsoft社を創業したビル・ゲイツ氏の資産は、2011年度で560億ドルあるという。大部分はMicrosoftという会社での事業を通して得たものだろう。ビル・ゲイツ氏はその多大な資産を元手に世界最大規模の財団Bill & Melinda Gates Foundationを立ち上げた。そしてその財団はワクチンの開発や貧困国の開発援助などを行っている。

Googleの場合はネット広告を出稿する人、Microsoftの場合はWord、Excelなどのいわゆるオフィス製品やWindowsのOSを購入する人が主な顧客だが、これらの顧客が今まで払ってきた金額の一部がGoogleの無料のサービスやビル・ゲイツ氏の財団が行う開発援助の財源になっている。GoogleやMicrosoftの顧客が税金を払い、その税金が無料サービスや貧困国の援助に使われているようなものだ。

独占的なポジションがMicrosoftやGoogleの利益を生み出してきたという見方もあるが、本業だけを見てもMicrosoftのWindowsやGoogleの検索システムが世界の生産性向上に果たした役割は非常に大きい。その本業で生み出した価値が十分大きいために、便利な無料サービスや慈善事業を行う余裕が生まれ、社会に貢献しているのだから評価に値する。

民主的に経営者が選ばれていない企業がそこまで力を持つのは危険だという見方もある。Google社には「Don’t be evil」という会社の方針があるそうだが、その方針がどこまで頼りになるかはわからない。実際、大企業の経営者でevilな人はこれまで少なからず存在した。皆がビル・ゲイツやウォーレン・バフェットのように社会貢献を考えるわけではないのだ。しかし、民主主義でないにしても大企業の経営者になる、あるいは、自分の会社を大企業にするという過程で、ある程度の選別が行われるためか、大企業トップの人格が民主主義の選挙で選ばれた政治家のそれに劣るということはない。むしろ、株式公開をしている大企業トップになるためのプロセスの方が、民主主義における選挙よりも強力な淘汰能力があるのではないか。

社会貢献はその意思があればできるというものでもない。社会貢献をするためにNPOを立ちあげる運営者や社会起業家の熱い想いや心意気は尊敬するし、すばらしいと思う。しかし、大事なのは実際にどれだけ貢献できたかの結果だ。普通の企業でもいわゆる社会企業でもNPOでも付加価値を生み出さない限り、社会貢献はできない。逆に業態に関わらず生み出す付加価値が大きければ大きいほど大きな社会貢献を実現できる。私は自分のことを社会起業家とは思わないが、洋々という会社を通して付加価値を出して世界がよりよくなることに貢献したい。想いの強さではなく、結果で示したい。


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