水影心
今年連載開始から40周年を迎えるとのことで話題になっている「北斗の拳」。核戦争後の暴力がはびこる荒んだ世界で主人公・ケンシロウが一子相伝の北斗神拳で悪い奴らを倒しながら平和な世界を求めていく愛と友情の物語だ。長兄ラオウをはじめとするライバルたちにはときに苦戦もするが悪党どもに対して見せつける北斗神拳の圧倒的な強さが大きな魅力になっている。
北斗神拳にはいろいろな技があるが基本的には人間の体にある「秘孔」(ツボのようなもの)を突くことで、人を内部から破壊させるような拳が多い。そのような北斗神拳の中で他の技とは少し趣の異なる「水影心」という奥義がある。一度戦った相手の技を習得して自分の技として使えるようになるという奥義だ。その奥義さえあれば他はいらないんじゃない?というドラえもんの「もしもボックス」的なオールマイティ感が漫画の設定的に若干ひっかからなくもないが、奥義そのものとしては魅力的で会得したくなる。これまでに出会った人の技をすべて自分も使えるようになったらすばらしい。
そう簡単にはいかないが少なくとも真似を試みることはできる。言語学者のJohn McWhorter氏は外国語を習得する上でネイティブスピーカーの話し方をそのまま真似することの重要性を伝えている。英語のネイティブスピーカーが話すのを聞いて、すぐにそのまま真似することは難しいが「How about that!」とか「Take it easy.」とかの決まり文句を少しずつ聞いた通り言ってみることくらいはできそうだ。文法は全く意識せずにまずはその言語の話者がやっていることをその言い方とか、場合によっては表情や身振り手振りまでそのまま真似てみる。英語だけでなく、スポーツでも仕事でも、これまで関わった人の中でいいな、と思うやり方を積極的に真似てみることは直接的に自分のパフォーマンスの改善につながりそうだ。よく言われるように学ぶとは「まねぶ」こと、つまり真似することにほかならない。
ケンシロウがすでに亡くなった強敵(ライバル)たちの拳を次々に繰り出し読者を泣かせる場面がある。そんな風にこれまで出会ってきた人のやり方を次々繰り出せたらかっこいいなと思う。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。