無から有を生み出す


絵を描くのでも小説を書くのでも、新しいWebサイトを作成するのでも新しい商品を開発するのでも、あるいはブログの記事を書くのでも、もちろん、志望理由書を作成するのでも、ゼロから何か新しいものを作るのは楽しそうに見えることもあるが実際のところはとても苦しいプロセスであることが多い。一旦完成するとそこに至るのが必然だったような感じもしてくるが、完成形が見えていない中で進んでいくのは、曖昧で掴みどころがない感じがして、常にもやもや感がつきまとう、なかなかしんどいプロセスだ。同じ作るのでも、たとえばレシピ通りに料理を作るような場合は、難しいところはあってもやるべきことが明確で精神的な負担はあまりない。すでにある道を進むのと、道のないところを切り拓いて進むのとでは、困難の質が根本的に異なる。

ショートショートの名手であり生涯1000編以上の作品を生み出してきた星新一も生みの苦しみをエッセイの中で吐露している。
「無から有をうみだすインスピレーションなど、そうつごうよく簡単にわいてくるわけがない。メモの山をひっかきまわし、腕組みして歩きまわり、溜息をつき、無為に過ぎてゆく時間を気にし、焼き直しの誘惑と戦い、思いつきをいくつかメモし、そのいずれにも不満を感じ、コーヒーを飲み、自己の才能がつきたらしいと絶望し、目薬をさし、石けんで手を洗い、またメモを読みかえす。けっして気力をゆるめてはならない。」(星新一「きまぐれ星のメモ」より)

ショートショートの神と称される作家でもこれだけ苦しんでいた。上記のエッセイはすでに350もの作品を発表していた時点で書かれたものだが、どれだけ作品を作っても書くのが楽になる気配は一向になかったそうで「生きているあいだに、あと何回この苦痛を耐えなければならないかと考えると、とても正気ではいられない」とさえ述べている。

志望理由書作成に苦しんでいる人も多いだろう。私自身も大学院の入学のためのEssay作成に苦労したことを今でも覚えている。苦しいとレシピのようなものに頼りたくなる。過去の合格した人の書類を真似したり、テンプレート的なものを活用したり、といった誘惑に駆られる。新しい道を開拓するのが大変で、すでにある道を探そうとしてしまうのだ。それで済む場合もないわけではないが、自分の最高の書類を作成しようと思ったら自分オリジナルのものを作成する必要がある。なかなか進まず時間が「無為に過ぎてゆく」ように感じることも多く、苦しいプロセスではあるが、無から有を生み出すためには通らなければいけない。苦しい分、乗り越えられれば自信になるし達成感も大きい。


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