伝えることの難しさ


伝えるということはとても難しい。自分の考えていることを相手に伝えようとするとき、言葉を使うことが多いが、言葉はとても便利なものではあるものの万能からは程遠い。共通の認識がない新しいことを伝えることができない。

たとえば、何かの物の色について伝えるとき、赤、青、黄といった色を表わす言葉を使うことができる。これは赤、青、黄という色がどういう色かという共通認識があるためだ。しかし、実際に自分に赤がどういう色に見えているか、ということを他の人に伝えることはできない。リンゴの色、イチゴの色、夕焼けの色、という例を挙げて、赤という色を説明することはできるが、それがどういう色なのかということを説明することはできない。もしかしたら自分にとっての赤は、他のある人にとっての青と同じ見え方かもしれない。先天的な色覚異常をもち赤系統の色と緑系統の色の区別が難しい人に対して、赤と緑の違いを言葉で説明することができるだろうか?先天的な視覚障害者に対して「見える」とはどういうことか、伝えることができるだろうか?もちろん、比喩や詩的な表現を使ってある程度のイメージを伝えることはできる。あるいは、「見える」ということは、電磁波のうち、ある一定範囲内の波長の波を眼で認識することだ、という原理を伝えることもできる。しかし、「見える」ということを本当に理解するためには、受け取る側にその経験が必要だ。

その人が今まで見たことのないもの、聞いたことのないもの、匂ったことのないもの、味わったことのないもの、触ったことのないものを伝えることは難しい。辛いものを食べたことがない人にどうやって「辛い」ということを伝えられるか?伝える側が比喩表現を使うなど、どんなに工夫を凝らしても、伝えられる側の経験が乏しいとなかなか伝わらない。伝えるのが難しいのは五感で感じたことがないものだけではない。たとえば、同じ音楽を聞いて、感動で涙を流す人もいれば、何も感じない人もいる。感動で涙を流した人は、自分がその音楽を聞いてどう感じたのかを何も感じなかった人に伝えられるだろうか?

あることを「伝える」ということは相手にそのことを理解してもらうこと。相手が今までに感じたことのないようなことを理解してもらうのは難しい。どんなにわかりやすい言葉で伝えても伝わらないことはある。伝え方も大事だが相手の経験や知識の度合いを知ることも重要だ。いくら含蓄のある偉大な本であっても読み手の準備ができていなければその内容は伝わらない。伝える側はまず伝えることの難しさを認識した上で、相手の経験や知識のレベルを考慮して、最適な伝え方を考える必要がある。


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