Deliberate Practice
何かのスキルを身に着けようと思ったときにはそのためにある程度の時間をかける必要がある。何かができるようになるということは脳の中で新しい回路ができる等の物理的な変化があるということだと思うがそういった変化をもたらすためには一定の時間が必要だ。実際どの世界においても一流と言われている技能を持っている人は例外なくそのための鍛錬に厖大な時間をかけている。分野によるかもしれないが数千時間から数万時間を費やしているはずだ。ただし、時間をかけることは必要条件であって、時間をかけさえすれば必ずできるようになるというわけではない。前に「字のきれいさ」という記事で書いたがどんなにたくさん字を書いたからといって残念ながら上手に書けるようになるという保証は全くない。むしろ字の美しさという観点ではある程度のところから全く進展しないという人の方が多いのではないか。
時間のかけ方に何かコツのようなものがあるのだろうか。効果的にスキルを身に着けられるような時間の使い方があるのだろうか。米国の心理学者であるアンダース・エリクソン氏は「Peak」という本で、「Deliberate Practice」の重要性を強調している。自分が簡単にこなせる練習ではなく、適度な負荷をかけたトレーニングを長時間行うことで初めて技能が向上するという。筋トレにおいてコンフォートゾーンでどれだけ量をこなしても筋肉が発達しないのと同様、簡単にできる練習を繰り返しても脳は発達しない。一方で自分ができないところや苦手なところを集中して繰り返すと負荷がかかり脳は発達する。これを数千時間レベルで繰り返すと卓越した能力を身に着けることができる。「Deliberate Practice」はコンフォートゾーンの外で集中して行う必要があるので精神的に疲れる。その道で一流の人にとっても決して楽しいものではないそうだ。ただ、長期間に亘って続けるうちに、楽しくなるまではいかないものの、楽しいと厳しいの中間くらいにはなるという。
「Peak」を読むと勇気づけられる点が2つある。1つは遺伝的資質よりも練習の時間の方が大事だということだ。確かに能力を身に着ける初期段階においてはIQ(知能指数)によって学習のスピードに差が出る。勉強時間が短くても他の人より数学ができる人はどこにでもいるだろう。ただ、長期的にみれば初期段階の差はあまり重要ではなく、どれだけ練習に時間をかけたかということの方が大事になるという。もう1つは大人になってからも「Deliberate Practice」は有効であるということだ。子どものときにトレーニングをしないと発達しないままになってしまうような脳の機能もあるがむしろそういった部分の方が例外で、多くのことは大人になってからでも習得できるという。脳の発達に限界は見つかっていない。ずっと文系だからコンピュータプログラミングは無理、とか、芸術の分野はセンスがなくて絵を描くのはからきしだめ、というような諦めは全く必要ない。
能力よりもかける時間の方が大事だと考えると可能性が広がり楽しくなる。コンフォートゾーンの外で練習する覚悟さえあれば、あと考えるべきことは何にどのように時間を使うかということだけだ。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。