字のきれいさ


今は多くの人がそうだと思うが、私は、長めの文章を書くときにはPCを使うが、メモ程度であればペンや鉛筆を使って書く。ペンや鉛筆をあまり使わないと漢字の書き方を忘れてしまいそうなので、年賀状の宛先などもできるだけ手書きで書くようにしている。今までの人生で手を使って書いてきた字の量はそれなりになっていると思う。しかし、最近になって気付いたことがある。いくらたくさん字を書いていても字を書くのが全く上手くなっていないのだ。おそらく高校生の頃から字のきれいさ(拙さといった方が適切かも)は全く変わっていない。これは意外と考えさせられる事実で、要は、単に時間をかけて量をこなすだけでは上達しないこともあるということだ。ゴルフでも毎日一定量練習しているとそのうちすごくうまくなるんだろうな、と思っていたが、もしかしたら練習のやり方によってはある程度以上ほとんど上達しない可能性がある。野球のバッティングでも毎日素振りをすることが上達につながるとは限らない。

さらに考えてみると仕事においても同じことをずっとやっているベテランの人が、若手にあっさり負けてしまうこともあるかもしれない。もちろん運動神経が必要になるスポーツやより純粋で若い頭脳を必要とする一部の研究の分野では20代で頂点に立つことも珍しくないが、経験が大事だと思われている他の分野でもただ単に経験を積めばできるようになるというわけではなさそうだ。外科医の技術も執刀回数の多さだけでは判断できないのかもしれない。実際、私より今まで字を書いた量が圧倒的に少ないはずの高校生でも私よりきれいな字を書く人は数多くいる。

才能がない人は努力しても結局あまり変わらないのだろうか?確かに才能がものをいう分野もあるが、多くの分野では、才能より、努力の仕方が重要だと思う。確かに私の字は今までたくさん書いてもあまり上達してこなかったがそれが才能の限界とはあまり思わない。以下は私の仮説だ。

まず、ひとことで上達といっても実はいろいろな上達の種類がある。たとえば字を書くということについて、見た目のレベルは変わっていなくても、もしかしたら書くスピードは上がっているかもしれない。あるいは、下が平らでないところで紙に字を書く技術とか手に負担をかけずにたくさんの文字を書く技術とかそういった見逃しがちなところで進歩があるのかもしれない。特定の部分で上達するためには、そこを意識して経験を積むことが必要なのではないか。実際、私は字を書くときに上手に書こうという意識が足りない気がする。字を上手に書きたいのであればただ単に書く量を増やすだけでなく、字をうまく書く、という目的意識をもって経験を積むことが必要になるのだろう。

もう一つ、上達するためにはある程度の負荷が必要なのではないか。何事もある程度までは大して深く考えなくても上達する。新しいことをする場合、何も考えていなくても自分の思ったようにいかないことが多いので、それだけで負荷がかかり、改善につながるのではないか。しかし、ある程度まで上達するとあまり自分に負荷をかけずにこなせるようになる。字がきれいでなくても書いたことが伝われば、それ以上望まなくなってしまう。そこから先、さらなる上達を目指すには自分自身で意識的に負荷をかける必要があるのかもしれない。筋力トレーニングの際に負荷をかけずにやっても筋力があまりアップしないのと同じで、字を上手に書こうと思ったら、自分に負荷をかけて丁寧にゆっくり書くことが必要なのかもしれない。

それから、これはGeorge Leonard氏のMasteryという本で紹介されている理論。上達するためには経験を積む必要があるが、その経験はすぐに上達につながらない。全く上達を感じることができない期間(plateau)が長く続き、それでも鍛錬を重ねていれば、あるとき、突然、上達が形として表れ、次のレベルに上がることができる。次のレベルに上がるとまたしばらく長い間、上達が形として表れないplateauの状態が長く続き、それでも鍛錬を続ければ、また、あるとき突然レベルに上がる。この繰り返しで、上達のプロセスのほとんどは、全く結果が表れないplateauの状態であるというもの。私の字についてももしかしたら今はplateauの状態にあって、もう少し経験を積めば、ある日突然レベルがあがるのかもしれない。

もし私の仮説とMasteryの理論が正しければ、上達のためには、目的意識を持って自分に負荷をかけながら経験を積む、そして、しばらく上達できなくてもあきらめずに努力を続ける、ということが大事である。


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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。