定跡と習慣


先日藤井聡太王座と永瀬拓矢九段の間で行われた将棋の第72期王座戦五番勝負第2局は76手目まで30分以内に指される、というハイペースな序盤の将棋だった。お互いが研究し尽くした手を打ち合ったということだろう。

将棋には定跡がある。先手と後手がお互いに最善と考える指し方が定跡だ。定跡に沿って指す場合は1手1手に時間をかける必要はない。それまでに十分に時間をかけて研究された手だからその場で一生懸命考えてもそれよりいい手を思いつくのは難しい。先日の王座戦の指し手はまだ定跡といわれるものではないかもしれないがお互いが事前に研究して最善手と考えられる指し手の応酬だった。定跡どおりに打てば勝てるようになるわけではないが相手がそれに応じる限り少なくとも途中までは互角の勝負ができる。定跡を活用することで難しい局面に集中して考えることができるようになる。

定跡の考え方は日常生活にも応用できる。たとえば朝起きてから出勤するまで最も効率的な準備の仕方があるかもしれない。顔を洗い、体重を測り、水を飲み、洗濯機を回し、テレビのニュースを見ながら朝食を用意し食べる。洗濯物を干した後、コーヒーを飲みながら新聞の朝刊を読む。自分にとっての定跡を見つけてそれを習慣化できると1日のうち何時間かはその手順で効率的・効果的に時間を使うことができ、負荷を抑えることで、より重要な局面に自分の持っている力を集中させることができる。

勉強も自分にとってやりやすい順番があるかもしれない。数学の問題を解いたら、リラックスしながら英語の音声を聞く。今度は古文を音読して、世界史の本を読む。論理的に考えたり、耳を使ったり、口に出してみたり、順番を工夫することでそれぞれ脳の異なる部分を使えばそこまで疲れることなく効率を上げる方法があるかもしれない。スポーツをやっている人は途中に筋トレやジョギングを入れたり、音楽をやっている人は途中に楽器の練習を入れたりするのもよいだろう。一度いい方法を見つければそれが自分にとっての定跡になり習慣化につながる。

習慣化の威力は絶大で、やるべきことを精神的な負担なく淡々と進めていくことができる。大事なところに集中するためにも定跡を磨き習慣化の力を活用したい。


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