推敲
以前勤務していた会社で、あるeラーニング教材の監修者を大企業の役員の方にお願いしていたことがある。その方は名前を貸してくださっただけでなく、原稿もしっかり読みこみ細かいところまで指摘をくださった。私も一つ一つの言葉に気をつけて使っているつもりではあったが実際には足りないところばかりでご尤もな指摘をたくさん頂戴した。そのときに「推敲」という熟語の起源を知っているかと問われ、知らなかった私は調べてくることを宿題として課された。
「推敲」という言葉の成り立ちを調べ、その役員の方の机の上にあった白川静氏の字典も入手し、より一層言葉の使い方に気をつけるようになった。作家の谷崎潤一郎は著書の「文章読本」の中で、同義語はたくさんあるけれど「最適な言葉はただ一つしかない」ということを言っている。「散歩」「散策」「そぞろ歩き」「ぶらつき」等、同じ意味の言葉がいろいろあってどれでも同じだと思うのは考え方に緻密さが足りない、必ずどれか1つが他の言葉より適切だという。
文化庁が実施している「国語に関する世論調査」の中に「姑息」という言葉の意味について問う項目がある。本来の意味とされる「一時しのぎ」を選んだ人は20%未満、元々の意味にはなかった「ひきょうな」を選んだ人は70%以上という結果だった。私自身も「姑息」という漢字を見ると「せこい」とか「正々堂々としていない」というイメージを描いてしまう。漢字からして、しばらくの間、息をつくことなので、その本来の意味を意識したいと思う一方で、「一時しのぎ」の手段はだいたい「ひきょう」で「せこい」感じがあるので、そのように意味が変わっていくのもやむを得ないとも思う。「適当」という言葉に「いいかげん」というニュアンスが定着したようなものだろう。言葉は時代とともに変わっていくものなので「正しい」使い方というのは難しい。ただ、自分の感覚にだけ頼るのではなく1つ1つの言葉の由来を知ることでより適切な使い方に近づくことができるように思う。辞書を引いて自分が長年思っていた意味と違ったということは未だによくある。「ただ一つ」の最適な言葉を選ぶためにできる限りそれぞれの言葉の本来の意味も知るようにしたい。
「推敲」の由来をご存じない方は是非一度お調べください。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。