百聞と一見
百聞は一見に如かず、とは言うが、実際に見たからといって理解ができるとは限らない。見えているようであまり見えていないこともある。海外の国を初めて訪れると自分の知っている人とは違うタイプの人に出会ったり、これまで見たことのない自然や文化に触れたり、大いに刺激を受け、強く印象に残る。現地に行くと五感でその国のことを感じることができる。その地に行ってみないとわからないことが確かにある。ただ、現地に行けば何でもわかるかというとそうでもない。むしろ現地に行ってわかることは表面的なことが多く、その国の歴史的背景を知らないと見過ごすことも多い。その国に行ったことはないけれどその国の歴史、地理、政治、経済についての知識が豊富な人と実際にその国に住んだことがある人とどちらがその国について知っているか、という問いに答えるのは簡単ではない。百聞が一見に勝ることもある。
旅行で日本に来て東京と京都で1週間過ごしても日本のことを理解したとは言い難い。もっと言えば日本に長年住んでいたとしても日本のことを理解している、とは言い切れない。日本に来たことがない人でも日本語に堪能で、日本の歴史を知り、日本文化に対する造詣が深い人もいる。日本で生活をしている人よりもそのような外国人の方が日本を理解しているという見方もできる。
麒麟は元々中国における想像上の動物だったがアフリカのキリンに出会い現実の動物を指すようになった(中国では別の言葉を当てているらしいが)。初めて実物を見た人はこれが麒麟か、とわかった気持ちになるかもしれないが、それで麒麟について理解が進んだと言えるだろうか。現実のキリンを見ずに伝説を聞いて頭の中に鮮明に描いていた麒麟の方が正解だったかもしれない。
もちろん機会があればいろいろなところを訪れて現地で自分の目で見て大いに刺激を受けられるといい。ただ、その機会がなくても人に話を聞いたり本を読んだりして想像を膨らませることはできる。目で見て得た情報も脳の中では電気信号として処理され、聞いたり読んだりして得た情報と本質的な差はない。見ることは大事だが人の話を聞くこと(本を通して知ること)もそれと同じくらい大事だ。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。