入試の時期


文部科学省が進めてきた2021年度の入試改革に向けての議論の中で大学入学共通テストを複数回実施するという案があった。実は共通テスト(当時のセンター試験)の複数回実施は1997年の中央教育審議会ですでに議論されている。20年以上議論されているが一向に実現の兆しがない。一つの理由は高校での教育への影響だ。高3での行事が組みにくくなる、高3の1年間が受験漬けになる、早めに全範囲を終えなければいけない、ということで高校側からの反対意見が多い、と聞く。運営の問題もある。一度に数十万人が受験する共通テストを年複数回実施するのは会場確保だけでも大変そうだ。受験者数科目数も多い共通テストを毎回作成する負担も大きい。作成するだけでなく各回の難易度を揃えなければいけない。ばらつきがある場合には得点調整も必要になる。

一方で実現できればメリットも大きい。まず一発勝負でなくなることで真の実力を発揮しやすくなる。一度失敗したときに次の年まで挑戦できないのはちょっと酷だ。年に3回受けて3回ともだめだったらそれが実力だとあきらめもつくだろう。加えて、早くから必要な点数を確保して他の勉強や活動に軸足を移すことがしやすくなる。複数回にしてさらに高1から受験できるようにすれば、共通テストの重みは下がり、いつ受けてもいい、たとえば今の英検に近い位置づけになるかもしれない。そうなれば受験生の精神的な負担は小さくなる。高校側が反対する理由の一つの高校行事への影響について、高1からいつでも受けられる試験にすれば、むしろ行事には参加しやすくなる。高3が受験漬けになる、というのもむしろ逆で、いつでも受けられればずっと勉強し続ける、ということもなくなるのではと思う。早めに受験するとなると高校によっては全範囲が終わらないうちに試験を受けることになるが、逆に自分での勉強を促すことになる。元々、高校ですべての範囲を学んだら共通テストで8割の得点が取れるようになる、というわけでもなく、そこまで大学受験の試験対策を高校に委ねなくてもいい。

飛び級の是非についてはまた別の議論が必要であるが大学進学の内定を早めに出すということは飛び級とは別に検討する価値がある。共通テストだけでなく、大学の個別の入試も複数回実施する必要が出てくるが、たとえば高1で東大進学の資格を得られれば、その後安心して留学も行けるし部活に打ち込むこともできる。

就職活動で政府の要請に関係なく大学3年生以下で内定をもらっている学生が充実した大学生活を送っているように見えるように、高校生も早めに進学先を決められる方が充実した高校生活を送れるように思う。今は共通テストが1月に1回だけ受験できるだけでなく、総合型選抜は9月以降、学校推薦型選抜は11月以降、という決まりがある。多面的な評価を本気で目指しているのであれば、入試の時期を国が規定する必要などなく、大学の自由に任せたらいい。様々な受験機会を用意することで、高校生が主体的に自分で考えて高校生活を組み立てることを促せる。就活を全社同じタイミングで一斉にやろうとするのと一緒で一斉に大学受験させようとするのは、もしかしたら効率的なのかもしれないが、何だか気持ち悪いし、文部科学省主導の入試改革の趣旨にもあっていないように思う。


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