自分
自分のことは自分が一番よくわかっていると思うかもしれないが意外とそうでもない。「わかる」というのは自分の理性によるものだが、自分の中で理性が司る部分の割合はあまり大きくない。体のほとんどの機能は自分の意志に関係なく動いている。何か異常があれば痛みという信号を通して伝えてくれることもあるし痛みまでいかなくても違和感のようなものに気づくこともあるがそれ以外に直接的に内臓や筋肉の様子を知る術はない。痛みや違和感も絶対的な信頼を置けるものではなく、ウィルスが侵入したり癌が進行したりしていても症状が出るまでは全く気付くことができない。血圧や血糖値など測定すればすぐにわかることでも自分で今どのくらいの数値なのかを判断するのは難しい。医師が患者を診断するときに問診が大事でないとは思わないが検査による数値は客観的なデータとして問診以上に重視されるのではないか。自分の体についての様々な検査結果を持った他人の方が自分より自分の体のことをわかっているという状況は十分にあり得る。
体だけでなく心についても自分が一番よくわかっているかどうかは怪しい。これまでの経験から自分の心がどういう場面でどういう反応をするかについてある程度認識できている可能性はあるものの、体験したことのないことについてどのような反応を示すかは自分でもわからない。他人であっても心の動きについて知識や経験を持っている人の方が精確に予想できる可能性は十分にある。さらに自分の理性が自分をコントロールしているような感覚があるが、脳研究の成果を見るとどちらかというと理性は司令塔の役割というよりは自分が行ったことを解釈する役割を担っているようなところがある。理性が行動を起こすというよりは理性が与り知らないところで自分が行ったことを後から理性が解釈しているようなのだ。楽しいから笑顔になるというよりは自分が笑顔だから自分は楽しいんだと自覚する。有名な「吊り橋効果」も吊り橋でどきどきしていることから自分が恋愛感情を抱いているのではないかと解釈をする。理性も自分のことを初めからわかっているわけではなく、現象を解釈して理解するという意味では、他人が解釈するのもそこまで大きな違いはない。
そう考えると自分のことをよく理解するためには他人を理解するのと同じような丁寧さが必要だ。自分のことをわかったつもりにならずいつも謙虚な気持ちで自分自身と向き合っていたい。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。