学問の面白さ
大学学部への志望理由として自分の将来のために必要な学びを得られることを挙げるのは常套かつ有効な方法であるが、必要だから、でなく、ただ単に好きだから、という方が審査官である大学教員の共感を得られることもある。将来、量子コンピュータを開発したいから量子力学を学びたい、だから物理学科に行きたい、というのもすばらしいが、物質が何から構成されているのかに興味がある、研究してみたい、だから物理学科に行きたい、という方が物理学科の先生の共感を得られるかもしれない。戦争のない平和な世界を実現したいからこれまでの宗教間の争いの歴史について知りたい、だから史学科に行きたい、というのも立派だが、日本がどうして第二次世界大戦に踏み込まざるを得なかったのか知りたい、だから史学科で勉強したい、という純粋な興味を伝える方が効果的な場合もある。大学の教員としてはその大学学部で研究していることに心から興味を持ってくれる人に来てもらいたいはずだ。その学びの必要性以上にその学びへの興味の強さは重要かもしれない。
その大学学部での研究に心から興味を持つためにはその学問の面白さの本質の部分を理解する必要がある。しかし、実際のところ、大学の研究者が面白いと感じるところに、面白さを感じられる高校生はそこまで多くない。特定の学問を追究したいから大学に行くのではなく、大学に行くことが前提でそこまで興味を引かれる学部学科がない中で比較的親しみやすそうなところを選ぶことの方が多い。人間関係に興味があるから心理学科、テレビが好きだからメディア学科、海外のことに関わりたいから国際学科、という感じだ。理由は何であれ、特定の学部学科に関心を持つのは悪いことではないが、それだけでは大学の教員に訴える志望理由にはならない。
大学側も学問の本質のところの面白さを受験生に理解してもらうことの難しさは理解していて、Webサイトやパンフレットでもどちらかというと表面的な面白さを前面に出す傾向にある。そこに惹かれて表面的な面白さの部分を志望理由で述べても大学教員の共感を得られない可能性があるので注意が必要だ。
とはいえ高校生が学問の面白さを理解するのは簡単ではないだろう。これまで面白いと感じてきたことと、大学の研究者が感じる面白さの間にはギャップがある。ただ、それを認識して、その学問がどうして存在するのか、それを学ぶことの意義はどこにあるのか、といったことを考え続けると、これまであまり興味を持てなかったことにも面白さを発見できるかもしれない。大学教員に近い視点で志望理由を伝えられると共感してもらえる可能性が高まる。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。