映像化と想像力
教科書のデジタル化について視覚表現の幅を広げられることをメリットとして伝えている識者の記事を読んだ。長方形や円の周りを点Pや点Qが動いて三角形PQRの面積を求める問題をアニメーションで表現できる、空間図形は3次元で回転させることができる、といったことが例として挙げられていた。たしかに紙の上の動かない図では想像しにくいものが動画でみたり、3Dで動かせたりするとだいぶイメージをもちやすくなりそうだ。ただ、それで学習効果が上がるか、ということには疑問の余地がある。
たとえば展開図から立体の形を想像するような算数の問題を考えるといつもと違う脳の使い方をして、かつ、完成図を明瞭に思い描くことができない歯痒さというか気持ち悪さのようなものを感じることがあるが、そのプロセスが学習につながっているようにも思う。アニメーションで展開図から立体ができる様子を見ることですっきり感はあるかもしれないしイメージを持てることも大事なのかもしれないが、それで脳が鍛えられるのかは疑問だ。
文章を読むことより映像を見る方が認知負荷が小さいのか気軽に楽しめることが多い。文学作品もドラマ化、映画化されることで広く受け入れられることがある。ドキュメンタリ映像を見て、難しいテーマについて理解が深まることもある。なので映像を否定するつもりはないが、ただ、情報量が少なく抽象度が高い文字や静止画から想像力によって新たな世界を自分自身で作り出すことができるのは人間のすばらしい能力で開発しない手はない。
多分まだ中学生だったと思うがウィザードリィというPCのゲームをやっていた時期がある。迷宮を探索するRPGなのだが、テキストと静止画だけで音も一切なく、淡々と進む。いわばプレイヤーの想像力に託されたゲームなのだが意外とはまる。今の精緻な映像とにぎやかな効果音のあるゲームに慣れた人でも楽しめるのだろうか。
点Pと点Qが動いているのを実際に見なくてもそれを想像できる力、文章を読むだけで情景を描ける力、そういった力を養っていけるいい。わかりやすさが大事なこともあるが敢えて目に見える形にしない方が想像力が鍛えられることもある。誰かが作った解答によって納得感を得るよりも自分自身の想像力で世界を創造していく方が大切であるように思う。
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洋々代表。日本アイ・ビー・エム株式会社にて、海外のエンジニアに対する技術支援を行う。その後、eラーニングを中心とした教材開発に、コンテンツ・システムの両面から携わる。 東京大学工学部電子情報工学科卒。ロンドンビジネススクール経営学修士(MBA)。
